小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英プレスガゼットはフェイスブックとグーグルの「2強」拡大を止める運動を行っている


(日本新聞協会発行の「NSK経営リポート」35号に掲載された、筆者記事に補足しました。)

懐疑のまなざし

 グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル(頭文字を取って「GAFA」と呼ばれる)など、インターネット業界を席巻する米IT企業大手の振る舞いに、英国を含む欧州諸国は懐疑のまなざしを向けてきた。日本と比べてみた時、このまなざしがあるかないかの違いがあるように思う。

 何故「懐疑」なのか?

 その背景には、一握りの私企業がインターネットがなければ回らなくなった社会の中で独占的な位置を持つことへの危機感、収益に見合う税金を払っていないのではないかという疑念、いずれの企業も利用者の個人情報を利用することでビジネスを拡大させていることへの不安感などがある。欧州であまりにも成功したがために、その巨大さが目立ち、漠とした恐怖感も底流にあると見ていいだろう。

 英ニュース週刊誌「エコノミスト」は1月18日号で「デジタル時代の競争――いかにテック業界の巨人を手なずけるか」と題する特集記事を掲載した。

 エコノミストは、こうした企業を「悪い=BAAD」だという。「巨大で(Big)、競争を妨げ(anti-competitive)、 ネット中毒を助長し(addictive)、民主主義を破壊(destructive to democracy)」するからだ。 規模が大きいからといって背後に必ずしも悪意があることを意味しないと続くのだが、それでも懸念するべき状態にあると指摘する。

 GAFAと英政界、規制業界、伝統メディアとのぶつかり合いのこれまでを見てみたい。

法人税逃れの疑惑をめぐる衝突

 英国とGAFAとの争いには伏線があった。 やり玉にあがったのは米スターバックス。2012年、同英国法人の売上は直近の3年間で12億ポンド(約1800億円)あったが、法人税納付額はゼロだった。この件でスターバックスの不買運動が起き、続いてメディアはGAFAなどが租税回避する事実を続々と暴露した。

 こうした状況を背景に、15年、英国は「グーグル税」を導入。多国籍企業による租税回避に対し、通常の法人税率(20%)より高い25%を課した。20か国・地域(G20)や経済協力開発機構(OECD)の場で税逃れを防ぐ国際課税の新たなルール作りが進む中、GAFAなどは英国での税金支払いの仕組みを変えるようになった 。これによりフェイスブックの英国法人の法人税支払額は14年の4327ポンド(約65万円)から、2年後の16年には510万ポンド(7億6200万円)と急増した。

 ソーシャルメディアを通じてニュースに接する人が増え、その影響力に懸念が出る中、16年米大統領選ではいわゆる「フェイクニュース」が大きな役割を果たしたと言われた。

 そこで、17年1月、下院の文化・メディア・スポーツ委員会(同年7月に改組し、現在はデジタル・文化・メディア・スポーツ委員会=DCMSC)が、フェイクニュースとその影響についての調査を開始した。現在もその作業が続いている。

 昨年10月、DCMSCが開いた公聴会で何度か取り上げられたのが、「フェイスブックやグーグルなどをどう法的に定義するか」であった。こうしたネット企業はこれまで、自分たちでは情報の中身を作らず、これを運ぶ「プラットフォーム」として機能するが、情報を作成しその中身に責任を持つ「出版社(パブリシャー)」ではないと主張してきた。

 しかし、ブラッドリー文化相(当時)は違法なコンテンツや過激主義を扇動するようなコンテンツがネット上のサービスを通じて拡散されるようになったことを問題視し、「ネットを規制するために新たな法整備が必要だ」という考えを示した。放送・通信業界の規制・監督組織「オフコム」のホッジソン代表も「個人的な意見」として、フェイスブック、グーグルなどを「出版業として規定するべきだ」と述べた。現時点では法制化は実現していない。

 DCMSCはネット企業に対し、16年6月の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票と17年6月の英下院選で、16年秋の米大統領選で発生したようなロシア側によるソーシャルメディアを通じての介入があったかどうかを調べ、報告するように指示した。しかし、報告された件数などがごく少数で影響は限定的であったため、コリンズDCMSC委員長は昨年末、詳細な報告が出ない場合「制裁を科す」と脅しをかけた。

 フェイスブック側は1月18日、「調査の幅を広げる」ことを約束する書簡を委員会に送った。2月8日、DCMSCは米ワシントンでグーグル、ユーチューブ、ツイッター、CNN、ニューヨーク・タイムズの代表者からフェイクニュースについての聞き取り調査を行った 。

 英国の伝統メディアにとって、グーグルやフェイスブック、ツイッターは情報を広めるための重要な役割を担っており、なくてはならない存在だが、同時に「敵」でもある。グーグルやフェイスブックが自社のニュースをどう扱うかで閲読率、ページビューなどに大きな影響があることに加え、両社のサービスを通じて自社のニュースを閲読する傾向が高いためにネット広告から得られる収入が激減してしまう からだ。

 新聞業界のニュースサイト「プレスガゼット」はグーグルとフェイスブックを「2人組(デュオポリー)」と呼び、「ジャーナリズムの破壊を停止し、ニュースの発行者にもっと代金を支払うべきだ」と両社に要求する取り組みを17年4月から開始している。同年末には仏ルモンドの紙面を使って、欧州委員会や欧州議会議員に対し公開書簡を発表。フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、オーストリア、オランダ、ベルギーの各通信社の連名で、オンライン広告収入の70%を占める2社の「ニュース事業は成長著しい一方で、他のメディア企業のビジネスは崩壊している」と主張した。

グーグル、メディア支援を表明

 グーグルは「無断でニュース記事を使って収入を得ている」という欧州新聞界からの批判をかわす一策として、15年末にデジタル化を支援する「デジタル・ニュース・イニシアティブ(DNI)」を開始している。英メディアも支援対象に入っているが、伝統メディアからはグーグルだけでなく、ほかの米テック企業にも英国のジャーナリズムを助けるために一肌脱いでほしいという声が挙がる。

デジタル・ニュース・イニシアティブのサイトから
デジタル・ニュース・イニシアティブのサイトから

 ウィッティングデール元文化相は新聞編集幹部が集まったイベントで、苦境にある地方新聞界にグーグルやフェイスブックが手を貸すアイデアを打診したことを明かした(プレスガゼット、1月18日付)。BBCは地方紙業界と協力し、150人の新規雇用を提供する仕組みを開始している。この「地方ニュース・パートナーシップ」にはBBC の受信料が原資として活用される。

 ウィッティングデール氏はグーグルとフェイスブックにこの制度に何らかの形で 供参加しないかと呼びかけたが、「それほど良い反応はなかった」という。同氏は「これからも説得を続ける」と語った。両者にはメディア業界の支援者としての役割も求められるようになってきたのである。

 生活のあらゆる面で米テック企業の存在感が増す中で、ネット上に広がる悪しき情報、例えばフェイクニュース、児童を性愛対象にするコンテンツ、憎悪を育んだり、テロを扇動するようなコンテンツなどを一掃する役割も期待されている。子供たちがネットに夢中になり、「中毒」となる現象への対処も求められている。

 今年1月に スイス・ダボスで開かれていた世界経済フォーラムで、メイ首相はテロ、過激主義、児童虐待などコンテンツを「自動的に削除する」ため、テック企業が一層努力するよう呼びかけた。欧州内ではこれらの企業がネットの監視人になるべきだとの風潮は強まるばかりだ。グーグルはユーチューブ上のコンテンツの監視人員を1万人以上に増やすと述べ、フェイスブックは年内に倍増の約2万人にするという。

 その規模や影響力が拡大すればするほど、テック企業への要求も大きくなる。昨今、ネット上に横行する有害なコンテンツの締め出しなどの社会的役割をすべてこうした私企業に押し付けるような論調が続いているが、政府、伝統メディアあるいは市民側ができることはないのかと筆者は思う。

 前述のメイ首相による「過激主義、児童虐待などのコンテンツを自動的に削除すべきだ」という要求について、フェイクニュースに関する著作物を持つジャーナリスト、ジェームズ・ボール氏は「漠然とした表現で失望した」という(BBCニュース1月24日放送)。グーグルやフェイスブックに効果的な行動を期待するのであれば、「何が過激主義あるいは児童虐待とされるコンテンツになるのか、政府側で明確に定義するべきではないか」と主張している。

 今年3月中旬、データ解析を基に選挙のコンサルティングを行う英企業ケンブリッジ・アナリティカ社が、8700万人にも上るフェイスブック利用者から個人情報を不正に取得し、有権者の投票行動に影響を及ぼそうとしたとする疑惑が大々的に報じられた。

 ケンブリッジ社は非難の的になったが、そんな流用を許してしまったフェイスブックに対する視線も、ますます厳しいものになっている。

 


# by polimediauk | 2018-04-08 23:01 | ネット業界

ガーディアン紙(1月15日付)とサン紙(1月19日付)

 (日本新聞協会が発行する月刊誌「新聞研究」の「世界メディア事情」3月号に掲載された、筆者記事に補足しました。)

 英リベラル系高級紙「ガーディアン」とその日曜版にあたる「オブザーバー」が今年1月、経費削減のため、縦に細長いベルリナー判から小型タブロイド判に移行した。字体を含めて紙面及びウェブサイトのデザインも刷新した。

 日本同様、英国の新聞も紙版の発行部数が長期にわたり減少傾向にあるが、小型化、デザイン刷新は果たして部数増加に貢献するのだろうか。

 小型化の背景や英メディア界の評価を紹介してみたい。

印刷費用を削減するためタブロイド化

 両紙を発行するガーディアン・ニュース&メディア社(GNM)は、来年4月までに財政を健全化させる3か年計画を実行している。今回のタブロイド化はその一環だ。

 2005年から導入されたベルリナー判での発行には専用の印刷機が必要だったが、タブロイド判であれば他の新聞社の既存の印刷機を使うことができる。

 そこで、全国紙「デイリー・ミラー」や地方紙など約260の新聞を発行するトリニティー・ミラー社がガーディアン(1月15日付から)とオブザーバー(同月21日付から)を印刷・発行するようになった。

 

 小型タブロイド化で「数百万ポンドを節約でき、ガーディアンの長期的将来を確固としたものにする」(プレスリリース)という。

経営状態は?

 ガーディアンとオブザーバーの経営状態を見てみよう。

 昨年4月決算によると、GNMを中核ビジネスとするガーディアン・メディア・グループ(GMG)の収入は前年比2・4%増の2億1450万ポンド(約335億円)、電子版からの収入は9410万ポンド(前年比14・9%増)、営業損失は3800万ポンド(同33%減)となった。

 電子版の収入増の要因は、購読料とは別に設定される会員費(購読者と合わせると、決算時で約40万人)、モバイル版アプリからの収入、読者からの寄付金など。損失の削減は従業員を1860人から1563人と大幅に減少し、費用を削減したことによる。

 

 3か年計画の柱は「新たな収入源の確保」「オーディエンスとより深い関係を作る」「経費を20%削減する」の3つ。GMGのデービッド・ペムセルCEOによると、今年4月までに営業損失を3800万ポンドから2500万ポンドに減少させ、翌年までに解消する見込みだ。

英メディア界の反応は

 ガーディアンはどのように変わったのか?

 小型化以外には、題字を変え、見出しには新規の字体「ガーディアン・ヘッドライン」を導入。「真剣で、信頼できるジャーナリズム」を提供する「質の高い、グローバルなニュース・ブランド」にふさわしい紙面づくりを目指した。

 英メディア界の評価を見てみよう。

 大衆紙サンは「タブロイド判ガーディアンより安い」という表現を1面の題字の上に記載した(1月16日付)。社説では「(ガーディアンは)他では読めない、大きなスクープを載せたらどうか。(高級紙は)そんなことは聞いたこともないだろうが、そうすれば1部か2部でも売れるだろう」と皮肉たっぷりだ。

 左派系高級紙「インディペンデント」の元編集長で現在はBBCのメディア記者アモル・ラジャン氏は、全体的に「魅力的」なデザインであると評価した。

 しかし、1面の題字を2段組にしたことで「最も弱い面」になった、と指摘もした(BBCニュース、1月16日付)。一段組だった「The Guardian」という題字が「The」が上段に、「Guardian」がその下に来る形となったからだ。これによって紙面の縦の間隔が狭くなり、保守系高級紙で同じサイズのタイムズ紙の1面と比べて中面に何があるかを示す情報も少ないという。

 新しい字体と、見開き両面を使って鮮烈な写真を掲載する「アイウイットネス(目撃)」、長文記事が冊子として組み込まれた「ジャーナル」、スポーツのドラマを再現する写真や記事の配置については称賛した。

 紙面刷新の目的が「コスト削減」、「編集長が自分はこれをやったということを示すため」、「デジタル化が進む中、印刷媒体の意義を読者に認めてもらえるかどうか」だったとすれば、もし最初の目的を果たし、黒字化に成功すれば、ガーディアン編集長キャサリン・バイナーとGMGのペムセルCEOは「歴史に名を残すだろう」(ラジャン氏)。

 筆者は新装初日の1月15日にガーディアンを入手し、大きな期待を持って紙面を開いた。全体としては、タイムズの紙面によく似ている印象を持った。

 ガーディアン(1月15日付)とサン(1月19日付)の1面を、この記事の冒頭に入れてみたが、直ぐに目が引き付けられたのはサンの方だ。ウィリアム王子の新しい髪型が180ポンドの高額であったことをユーモアを交えて報道している。

 一方、ガーディアンの方は、内部告発サイト「ウィキリークス」に米軍の機密情報を流したチェルシー・マニング氏の画像を載せている。

 マニング氏は長期の受刑を課せられていたが、昨年1月に恩赦を与えられ、5月からは一般市民の一人として生活している。 

 今回、サンの1面のようなパンチ力が、ガーディアンにはないように感じた。ただし、大衆紙のように「強く叫ぶ」スタイルを取らないのが、ガーディアンやタイムズなどの高級紙の特徴ではあるのだが。

紙は下落傾向、電子版はトップクラス

 英ABCの調査によれば、昨年12月時点でガーディアンの紙の発行部数は約15万部(前年比5・88%減、前月比3・32%増)、オブザーバーは約17万5000部(前年比3・7%増、前月比0.27%減)。

 一方、ウェブサイト(ガーディアンとオブザーバーは1つのサイトにある)の月間ユニークブラウザーは1億4000万を超え、英国ではトップクラスだ。寄付金、会員費、購読料など何らかの形で資金を提供する人は、年末時点で80万人を超えた。

 電子版で記事を読む人が圧倒的に多く、購読料とは別に会費あるいは寄附金を払う人も相当数いることから、両紙の将来はデジタルにあると見るのが妥当だろう。

 紙の新聞の印刷・発送を他の新聞社に委ねて身軽になったGMG社が、2016年3月に完全電子化したインディペンデントに続く決断をする、つまりガーディアンとオブザーバーを完全電子化する日はそれほど遠くないのではないか。

 


# by polimediauk | 2018-04-06 16:55 | 放送業界


(新聞通信調査会の「メディア展望」3月号に掲載された筆者原稿に補足しました。)

 英オックスフォード大学に設置されているロイター・ジャーナリズム研究所は、毎年、世界主要国のデジタル・ニュースをめぐる状況について調査を行い、その結果を発表している。最新版「デジタルニュース・リポート 2017」を紹介してみたい。

 今回で6年目となるリポートは36カ国・地域の7万人を対象にし、英YouGovが昨年1月から2月にかけて調査を行った。調査費用の一部はBBCを含む英メディア、複数の大学、米グーグルなどが負担した。

メッセージアプリが人気、SNSへの不信感

 36カ国・地域全体の特徴として、いくつか拾ってみる。

 

 (1)ソーシャルメディアからメッセージアプリへ。前者の拡大が停滞気味で、プライバシーをより保てる後者の人気が高まっている。

 

 (2)ソーシャルメディアが事実とフィクションとの区別を十分に行っていると答えた人は24%のみ。伝統メディアの場合は40%。


 (3)ニュースメディアへの信頼性は、国によって大きく異なる。フィンランド(62%)が最も高く、最も低いのはギリシャと韓国(23%)だった。


 (4)メディアへの不信感の高さと政治的偏向には強い相関関係があった。特に政治見解が分極化している米国、イタリア、ハンガリーでこの傾向が見られた。

 

 (5)約3分の1がニュースに接触することを避けることが多い、あるいは時々そうすると答えている。理由は気持ちが沈むから、あるいは真実とは思えないからだった。


 (6)パソコンよりも携帯機器でニュースを閲覧する人が増えている。

 

 (7)携帯機器でキュレーションされたニュースを読む人が多い。特に伸びたのがアップル・ニュースとスナップチャット・ディスカバー。

 

 (8)外出時だけではなく、家でも主としてスマートフォンでニュースを閲覧する人が増えている。

 

 (9)アマゾンのエコーなど音声で動作を開始する機器でニュースに接する人が米英で増えている。

 

 (10)オンラインニュースの有料購読率は、「米トランプ大統領効果」によって大きな伸びを見せた。

 2016年11月の大統領選から昨年の年頭までにニューヨーク・タイムズ紙はデジタルの有料購読者を50万増やし、ウォールストリート・ジャーナル紙は25万増加させた。寄付の比率も増えた。新規購読者の大部分は左派系の若者層だった。

 何故有料購読するかと聞かれ、「ジャーナリズムを助けたい」という人が米国では29%いた。

 (11)オンラインニュースの有料購読率が特に高いのは北欧のノルウェー(15%)、スウェーデン(12%)、フィンランド(10%)だった。最も低いのはギリシャの2%。日本は6%。

 何故有料購読するかと聞かれ、全ての国・地域で最大の理由として挙げられたのは「スマートフォンやタブレットでアクセスしたいから」(30%)。これに「広い範囲の情報源のニュースに接したいから」(29%)、「割安サービスを提供されたから」(17%)が続いた(複数回答)。「ジャーナリズムを助けたいから」は13%だった。

 

 逆に、何故有料購読しないかを聞かれ、最大の理由は「無料でニュースが閲覧できるから」(54%)で、これに続いたのが「最も好むニュースサイトが無料で記事を出しているから」(29%)、「オンラインのニュースはお金を払う価値がないから」(25%)。

 (12)インターネット広告をブロックする「アドブロック・ソフト」の導入はデスクトップでは21%で、これは現状維持。スマートフォンでは7%。

 一時的にアドブロックを行ったという人はポーランド、デンマーク、米国で半数以上を占めた。国別では導入率が最も高いのはギリシャ(36%)、韓国が最も低く(12%)、日本も12%と低い。

 (13)特定の媒体のニュース記事が複数のプラットフォームで配信されるとき、どこでその記事を見つけたかは記憶に残るが、どこの新聞あるいはニュースサイトが制作した記事かは覚えていない傾向が見られた。

 

 (14)ニュースへのアクセスで、紙の新聞を最も好むのはオーストリア人、スイス人。ドイツ人やイタリア人はテレビを最も好む。中南米諸国ではソーシャルメディアやチャット用アプリを最も好む傾向があった。

日本の閲覧傾向は?

 ロイターのリポートは全体の傾向を説明する部分の後に、各国の状況をつづっている。日本の現況を紹介してみたい。

 テレビ、ラジオ、新聞・雑誌を合わせた中で、最も利用するニュース媒体はNHKがトップ(56%)。

 これに続くのが日本テレビ(44%)、テレビ朝日(40%)、TBS(39%)、フジテレビ(36%)、地方紙(23%)、テレビ東京(18%)、朝日新聞(17%)、読売新聞(17%)、民間ラジオ局(13%)、日経新聞(13%)、米CNN(6%)、毎日新聞(6%)、5%が産経新聞、BBCニュース、スポーツ紙(複数回答)。

 オンラインではヤフーニュースが断トツ(53%)で、これに続くのがNHKニュースオンライン(23%)、日本テレビ(15%)、TBS(13%)、テレビ朝日(13%)、朝日新聞(12%)、フジテレビ(12%)、日経新聞(12%)、MSNニュース(8%)、産経新聞(8%)、テレビ東京(7%)、読売新聞(7%)、民間ラジオ局(6%)、毎日新聞(6%)、日経ビジネス(5%)、地方紙(5%)。

 NHKを好む理由は「正確で安心できる」(59%)、「複雑な事柄を理解できる」(43%)、「強い視点がある」(33%)、「面白い、娯楽性がある」(22%)。

 一方、ヤフーニュースを好む人は「面白い、娯楽性がある」がトップの理由で63%、これに「正確で安心できる」と「複雑な事柄を理解できる」がそれぞれ32%、「強い視点がある」は27%だった。

 日本の項目は共同通信社の澤康臣記者の執筆による。澤氏はロイター・ジャーナリズム研究所のフェロー(2006-07年)だった。

 同氏は他国では人気が高いソーシャルメディアのフェイスブックが日本ではユーチューブやLineに続く、第3位の位置にあることを指摘する。

 ニュースにアクセスする際に最も人気があるソーシャル・メディアとメッセージアプリのランキングでは、フェイスブックは第4位となり、ツイッターの下に来る。

 その理由について、澤氏は総務省の2014年の調査を例に出す。これによると、日本人はオンライン上では匿名であることを好むという。これが、ビジネス上のネットワークを作るソーシャルメディアのリンクトインが他国では人気が高いのに、日本では有効回答者の1%しか使っていない理由ではないか、という。

 筆者は毎年、このリポートに目を通してきたが、いつも気になるのが「オンラインニュースへの参加度」という指標の結果だ。

 「参加度」には様々な意味合いがあるが、「ソーシャルメディアなどで共有した」、「コメントを残した」と定義した場合、最もその度合いが低いのが日本だ。トップは中国(64%)とブラジル(同)で、ほぼ真ん中にあたる米国が41%。筆者が住む英国は後ろから3番目の22%。日本は最後で13%だ。

 国民性と関係があるのだろうか?日本のニュースサイトはコメントができない場合も多いので、これが関係しているのかどうか。興味は尽きない。

今年のトレンドは?

 さて、今年、ニュース業界はどうなっていくのだろうか?

 ロイター・ジャーナリズム研究所は、今年のトレンドを予測するリポート(「ジャーナリズム、メディア、そしてテクノロジーのトレンドと予想 2018」)も発行している。

 世界29カ国のメディアで働く、194人のデジタル・ニュース担当者に聞いたところ、最も懸念しているのはフェイスブック、グーグル、アップルなどのいわゆる「プラットフォーム」と言われる企業が影響力を増していること(44%)だった。

 半数に近い担当者が有料購読をデジタル収入の要と考えていた。

 成功の鍵とされているのが「音声」だ。58%がポッドキャストや音声で作動するスピーカーを使うことに力を入れるつもりであるという。また、72%が人工知能(AI)を使った実験を行うことによって、記事のおすすめ機能を向上し、記事の制作を効率化させたいと考えている。

 筆者は先月、日本に一時帰国していたが、家電販売店で見かけたのがアマゾンのエコーなど、音声でニュースなどを流す機器だった。高額というイメージがあったが、機器によっては3000円という価格のものもあり、買いやすくなっているようだ。実際に利用しているという人も友人の中にいた。「音」が確かに鍵になりそうだ。


# by polimediauk | 2018-04-05 16:25 | ネット業界
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(英国立公文書館の外観・筆者撮影)

(ハフィントンポスト・ジャパンに掲載された、筆者のブログ記事に若干補足しました。)

 昨年来、日本では公文書管理についての議論が活発化している。

 南スーダンに派遣されていた自衛隊員による日報が当初「破棄済み」とされていた事件や、森友学園問題、加計学園問題でも公文書の所在が大きくクローズアップされた。

 英国では政府公文書をどのように管理しているのだろうか?

 筆者は数か月前から、英国の国立公文書館(The National Archives=TNA)に足しげく通うようになった。

 訪問の頻度が増えると、非常に使い勝手が良い場所として実感するようになった。

 使うほどに、あるメッセージが明瞭になってくる。それは「公文書はみんなのもの」だ。そのサービスの端々からこのメッセージがにじみ出た。

 英公文書館のこれまでとその使い勝手を記してみたい。

19世紀半ばから、本格的管理に動く

 ロンドン南西部キューにある英公文書館の前身は「パブリック・レコード・オフィス(Public Record Office=PRO)」で、設立は19世紀半ばになる。1830年代から、公文書の保管をどうするかについて、識者の間で本格的な議論が始まった。

 公文書館に収められている文書の中で、最も古いものは11世紀の土地台帳だ。これは「ドウームズデー・ブック」とも呼ばれている。「ドウームズデー」とは「最後の審判の日」という意味だが、それはこの土地台帳が税金の支払い額を決定する最終的な書類の役目を果たしたからだ。

 当初、様々な政府の(つまり王室の)書類は財宝と同等に扱われ、大きな箱に財宝と一緒に入れられて、国王が各地を回る時にはこの箱と一緒に移動した。

 官僚制度が発達してくると、書類はロンドン・ウェストミンスターに保管されるようになった。ウェストミンスターには寺院など宗教的な建物がいくつもあり、書類の保管に適していたからだ。ちなみに、ウェストミンスター宮殿には、現在、英国の国会・議場が置かれている。

 中世の時代の財務府(現在の財務省)の書類は、羊皮紙に羽ペンで書かれたもので、くるくると巻いて保管した。横から見ると「パイプ(管)」に見えるので、「パイプロール」と言われている。公文書館には大量のパイプロールが保管されている。

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(筒状に巻かれたパイプロールは袋に入れられ、書庫にこのように置かれていた。筆者撮影)

 公文書をきちんと保管しようという動きが出てくるのは18-19世紀頃で、1830年代に調査委員会が立ち上げられた時には、「羊皮紙がくっついてしまい、読めなくなった」パイプロールは珍しくなかったという。

原本が簡単に見られる場所

 英国の公文書館で驚くのは、歴史上重要と思われる様々な公文書の原本が、原則、直ぐにかつ手に取って閲覧できることだ。

 原本閲覧には読者カードを作ることが必要となるが、身分を証明できるものを持っていくと、その場で作成してもらえる。

 原本の毀損を防ぐため、一部の古い文書は複製化(先の「ドウームズデーブック」)やデジタル化(法の支配を定めた13世紀の文書「マグナ・カルタ」)されている場合があるが、そのほとんどを実際に手にして、触ってみることができる。

 白い手袋をはめる必要もほとんどない。公文書館の職員に聞いたところによると、手袋の繊維が原本を傷つける可能性があり、素手の方が良いという。

 こうして、筆者はパイプロール、「タリー・スティック」(割りばしに傷をつけたような棒、税金の支払い記録などに使われた)、地図、ポスター、写真、閣議記録、落書き、布見本、手袋、一房の髪の毛、そのほか様々な「文書」をまじかに見ることができた。

 「文書」と言っても紙だけではなく、公のために作成された様々な事物も入る。ネット時代の現在はウェブサイトや電子メールもその一部だ。

 歴史的な文書を目にしたとき、当時の人々の感情や思いが伝わってくるように感じたことが何度もあった。

 例えば、ヘンリー8世(在位1509-47年)の離婚証明書だ。離婚と結婚を繰り返し、その内を2人を処刑した冷酷無比の国王として知られるが、最初の離婚に向かった理由は「男子の世継ぎを作りたい」という強い思いだった。妻キャサリンを嫌っていたわけではなかったが、男児を産めないのでは次の治世を安定化できない。背に腹は代えられないと思ったようだ。

 当時、キリスト教(ローマ・カトリック教会)の下で離婚は許されなかった。何とか抜け道を探ろうとしたが、失敗。ヘンリーは、とうとう、離婚をするために自分をトップに置く国教会を作ることにした。

 西欧ではキリスト教が社会のすべてを牛耳っており、ローマ・カトリック教会からの離脱は前代未聞の出来事であった。英国内のカトリック教会は財産を没収され、聖職者は職を追われた――国教会の聖職者として忠誠を誓うしか生き残る道はなかった。

 ヘンリーは、妻キャサリンの侍女アン・ブーリンと結婚するため、キャサリンとは離婚したことを示す書類が必要になった。

 筆者はこの書類を取り寄せてみた。ちょとごわっとした紙につづられた、当時の聖職者のトップらによる離婚通知書である。

 「このたった一枚の紙きれが・・・」。筆者は写真を撮るために広げた紙の端に触れながら、そう思った。

 3年後、ブーリンは男児を産むが、死産。数か月後には姦通罪などで逮捕され、処刑された。

 ヘンリーの時代を少し遡った13世紀に作成された、財務府のある文書も興味深い。

 文書は一冊の本としてまとめられており、ところどころ、頁の端には絵文字が描かれていた。一瞥して中身が分かるようにするためのものだったようだが、いかにも私たちが今携帯電話で使う「エモジ」にそっくりだった。絵文字を描きながら、一体何を思ったのか。一種の気晴らしになった、ということはないのだろうか。数世紀も前の財務府の官僚が、一瞬にして、身近に感じられた。

原爆被害の様子を読む

 日本関連で最も衝撃を受けたのは、1945年に広島と長崎に原爆が投下され、その3か月後に英国調査団が現地調査をした際の報告書だった。

 外からやって来た人が、広島と長崎で何を見たのか。

 科学者が主となる調査団は、原爆による打撃、建物の倒壊の様子をイラストや地図、写真をたくさん使って伝えた。

 報告書の中にある数々の写真を目にし、犠牲者の様子を伝える文章を読むのはつらかった。

 この報告書もそうだが、公文書は英国にいる人に向けて作られているので、閲覧することで日本が他国からどう見られていたのか、観察されていたのかが分かって来る。外国の公文書に触れるときの、醍醐味の1つだ。

公に開かれている文書
 
英国の国立公文書館には約600人が働き、収蔵資料をもし積み上げたら、160キロメートルになると言われている。日本では約50人が働き、所蔵量は約60キロメートルと聞いている。新国立公文書館の建設で、より増えることになるのだろうと思う。

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(館内のコンピューターから閲覧申請できる。筆者撮影)
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(申請したファイルを職員は閲覧者のデスク番号の棚に入れる。筆者撮影)
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(書庫の様子。筆者撮影)
 
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(書庫ツアーで職員が布見本を見せる。筆者撮影)

 冒頭の英国の公文書館には「公文書はみんなもの」というメッセージが根付いていると書いたが、公文書館に実際に行ってみると、この点を多くの人が納得するだろうと思う。

 例えば開館時間については、日月が休みだが、他の日は午前9時から午後5時まで、そして火曜と木曜は午後7時まで開いている。車で来た場合、駐車料は無料だ。

 中に入ると、すぐ右手に本屋があり、その隣の「キーパーズギャラリー」と呼ばれるコーナーでは、代表的な公文書のいくつかが展示されている(ただし、5月まで一時的に閉鎖中)。

 原本を見るために読者カードをその場で作ってもらえると先に紹介したが、読者カードがなくても、館内のコンピューターを使って、様々な調べ物ができる。館内には家系図を調べるためにやってくる人も多い。

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(補修中の様子。筆者撮影。昨年秋の「オープンデー」にて)
 

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(薄い和紙を使って、補修作業をする。筆者撮影)

 閲覧申請は自宅からでもネットを通じて行える。また、デジタルアーカイブの作成も順次、進められている。

 書庫を見学するツアーがほぼ毎月、行われており、年に何度か、利用者と館長が意見交換をする機会ももうけられている。

 1年を通じて、時流に合ったイベント、講演会を頻繁に開催している(一部、有料)。例えば、今年は英国で女性が参政権を持ってから100年にあたり、これにちなんだイベントが目白押しだ。

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(レストラン・エリア。筆者撮影)

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(イベントルーム。筆者撮影)

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(入り口に向かう道には、タリースティックのギザギザをアレンジしたオブジェがあった。筆者撮影)

 館内はゆったりとした作りになっており、1階にあるレストラン、カフェのソファの配置も空間が適度に開いており、リラックスできる環境となっている。

 イベント終了後にはオンライン・アンケートが行われ、参加者の意見を次回に反映させるようにしている。

 筆者が英公文書館に初めて行ったのは2010年頃だが、昨年夏からは調べ物をするためによく出かけるようになった。

 昨年後半、本を執筆する機会を得て、英公文書館で見つけた驚きの文書にまつわるエピソードと日英の公文書管理の在り方の違いを中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」にまとめている(30近くの公文書画像のほとんどを掲載。公文書のファイルIDも付けています)。

***

 3月25日(日曜日)午後2時半から、日本新聞博物館で「英国国立公文書館から見える英国社会とメディア」というテーマで講演します。

 新聞博物館に行ったことがない方も、これを機会にいらっしゃいませんか。

 講演会は無料ですが、入館料が大人400円になります。

 「英国の公文書管理の記録は11世紀頃に遡り、現在、『公文書はみんなのためにある』という視点が運営の根底にあります。政策過程を文書に残し、後世の審判にゆだねる――英国民主主義の歩みが公文書館の運営に凝縮されています。どんな公文書が保管、活用されているのか、スライド写真などでもご紹介したいと思います」(イベント紹介文より)


 お申し込みは:メール(npevent@pressnet.jp)または往復はがきで、氏名・電話番号・メールアドレスを記入のうえ、3月20日(火)までにお申し込みください。往復はがきは、返信部分に宛先をご記入ください。メールは、件名を「英国公文書館」としてくださるよう、お願いいたします。

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# by polimediauk | 2018-03-05 17:29 | 英国事情
 3日午後10時過ぎ、ロンドン中心でテロ事件が発生しました。

 暴走ワゴン車がロンドン橋で歩行者らを倒して死傷させた上に、ワゴン車から出た実行犯数人が近くの繁華街バラ・マーケット付近まで走り、刃物で殺傷行為を行いました。実行犯の3人の男たちは、駆けつけてきた警官らに射殺されました。詳しい情報はこちらのニュースをご覧ください。以下をクリック→BBCニュース


 4日現在、現場付近は警察が封鎖しており、捜査が続いています。


 現時点でどうなっているのか、ロンドン橋やバラ・マーケット周辺に足を運んでみました。


 近辺の主要駅の一つがウオータールー。ウオータールー駅とバンク駅(ロンドン橋が近い)をつなぐ、ウオータールー&シティ線が閉鎖されていました。


 ほかにもいくつか閉鎖されている線がありますが、一部は地下鉄の改修などのためもあります。土日は改修工事を進めるために一部の線が使えないようになっていることはイギリスではよくあります。


 ロンドン橋に向かう場所とバラ・マーケットに近い場所の写真を入れてみます。


 地下鉄の電車がロンドン橋に止まらず通過していった時、1990年代、東京で発生したサリン事件を思い出しました。当時は、千代田線を使って大手町に通勤していました。事件当日の朝、電車は霞が関駅で止まらず、通過していきました。あの時のことが甦ってきました。


 犠牲者の方のご冥福をお祈りします。



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(ウオータールー駅で。ウオータールー&シティ線が閉鎖)
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(バンク駅を出ると、出口にある郵便ポストが使えないようになっていました)
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(バス停も使えないように)
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(ロンドン橋に近い、モニュメント駅は閉鎖)
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(この写真の奥がロンドン橋につながってゆきます)
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(現場でリポートをする記者)


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(今度はバラマーケットに近い場所から見てみました)
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(バラマーケット近辺ですが、少し場所を変えました。警察が捜査中)
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(付近には、すでに追悼の花束を置いていた人も)


# by polimediauk | 2017-06-04 23:31 | 英国事情
 先月中旬、オランダで下院選挙(定数150)が行われたが、反移民・反イスラム教の排他的政党「自由党」が第1党になるのではという予想は大きく外れた。欧州の主要ポピュリスト政党の1つとなる自由党が第1党になったら「大変なことになる!」という懸念を抱え、外国メディアがオランダに大挙したが、自由党は第2位にとどまった。獲得議席数は20(5議席増)で、得票率は13%。少数政党が乱立するオランダ議会で第2位ではあるものの、政界を「席巻する」事態ではない。

 それでも、どの政党も移民を解決するべき問題の1つとして位置付けるようになっており、自由党の影響力は侮れない。

 反移民、反イスラム教――どちらも、筆者が住む英国では「政治的に正しくない」政治姿勢だ。自由党の党首ウィルダース氏はイスラム教のモスク(礼拝所)閉鎖や聖典コーランの禁書を公約として訴えた。世界に多くの信者を持つイスラム教の聖典を禁止せよと言う人がオランダでは議員として活動ができるなんて、「信じられない」という思いで一杯だ。

 異なる価値観を持つ移民を何世紀にもわたって受け入れてきたオランダ。ステレオタイプ的かもしれないが、この「寛容の国」で、一体何が起きているのだろうか。

 オランダの政治ジャーナリスト、マルク・シャバン氏に、その本音部分をアムステルダムのカフェでじっくりときいてみた。

***

 シャバン氏はオランダの会員制新興メディア「コレスポンデント」の政治記者だ。会話はまず、コレスポンデントの話から始まった。

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会員数が5万人を超えたというブログ記事(Mediumより)

―コレスポンデントはクラウドファンディングで当初の資金を作ったと聞く。2013年から始まって、今はどれぐらいの購読会員がいるのか。

シャバン氏:約5万6000人だ。すごいスピードで増えている。

―なぜ人気なのか。

どの政治勢力にも属さない、独立した論調があるからだろう。書き手は自分が思うことを書く。あの人がこういった、この人がこういったという風に発言を引用しながら中立的な記事を書くのではなく、自分の考えていることを書く。

 購読者(=会員)だけが記事にコメントを残せる。このため、コメント欄が荒れない。本当の議論ができる。

 現在はオランダ語の記事の1部を英語に翻訳しているが、本格的な英語版の発足に向けて準備も進めている。

―コレスポンデントの前はどんなメディアで働いていたのか。

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シャバン記者

 有力紙「NRCハンデスブラット」で42年間、政治記者だった。特派員としてパリ、ロンドンにも派遣された。

 1年前に、コレスポンデントに入らないかと声をかけられた。未来のジャーナリズムの姿を見たいと思って働くことにした。

―既存のメディアに勤めて、今は新興の、ネットオンリーのニュースサイトで働くわけだが、どんな感じに違うのだろうか。

 非常に面白いメディアだ。コレスポンデントは思い切った議論を掲載しているし、読者との相互コミュニケーションがある。新聞の場合は、読者はメールや手紙で意見を寄せてきた。コレスポンデントでは記事が掲載されると数分後には読者のリアクションが次々と出てくる。時には参考にならない意見もあるが、面白いものも多い。

―なぜウィルダース氏のような政治家が人気なのか?ほかの政治家が移民やイスラム教にかかわる問題に十分に関与してこなかったせいだろうか。

 答えは少々複雑だ。

 オランダは1950年代、60年代にイスラム教の国から移民を受け入れた。労働力を補うための「ゲストワーカー」だった。例えば、オランダ企業の経営者がモロッコ、アルジェリア、トルコなどに行って、人を探してきた。オランダ人がやりたがらないような単純作業をやってくれる人が欲しかった。例えば清掃作業や工場で働くことだ。あくまでも一時的な滞在を想定していた。働く期間が終わったら帰るだろう、と。

 ところが、こうしたゲストワーカーたちはオランダにい続けた。一時的な滞在ではなく、永住となった。永住権を得たので、今度は本国から家族を呼び寄せるようになった。

 移民の第1世代は母語をそのまま維持していた。第2,第3世代になると、学校でオランダ語を学ぶ。家では家族と母語で話し、外ではオランダ語だ。第2,第3世代はここで生まれ育っているのでオランダ文化を吸収するわけだが、必ずしも社会から受け入れられているわけではない体験をしている。犯罪事件に巻き込まれる人も多くなった。

 トルコやモロッコからの移民家庭の出身者のほとんどがオランダ社会によく融合しているものの、一部の人は、親あるいは祖父母の出身国の文化にも、オランダの文化にも属さないと感じる存在となった。

 グローバル化も移民出身者に影響を及ぼす。国境がオープンになり、人が外から入ってくる。企業はより安く使える人を世界中から呼んでくる。移民の第2、第3世代の失業率は先住オランダ人口の失業率よりもはるかに高い。

 かつてゲストワーカーが手掛けてきた仕事は世界中にアウトソースされるようになった。それほど多くのゲストワーカーは必要とされなくなった。すでに永住してオランダにいる、かつてのゲストワーカーはどこにも行けなくなった。

―オランダに元々いる人はどんな思いでいるのか。

 グローバル化で職を失うのは先住オランダ人も一緒だ。エリート層がいかに欧州連合(EU)が素晴らしいといっても、意味がない。先行きに不安感を持っているし、職を失っている人もいる。移民が自分たちの仕事を奪ったのだ、と思っている。実は、世界的なグローバル化の現象や機械化が進んだためであるのだが。

 EUや移民のせいばかりではなく、世界経済の動向によって、教育程度やスキルが低い人は職を失ったり、あるいはより低賃金を強いられたりするようになっており、自分たちの声を聴いてくれる政治家がいないことに不安を持っている。

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選挙戦中にルッテ首相(左)とともに子供用番組に出るウィルダース氏(中央)

 ここにウィルダース氏がやってくる。不安感を持っている人の声を代弁し、解決策を提供できる、と主張している。米国のトランプ氏のように。

 ウィルダース氏は移民が入ってこないように国境を閉鎖したいという。

 彼が「普通の市民のために」主張する時の「移民」とはゲストワーカーとしてやってきたイスラム教徒の国民だ。この人たちはすでにオランダにいるのだし、オランダはEUの加盟国だから、(ヒト、モノ、資本、サービスの自由化が原則の)EU市民の流入は止められないのだけれども。

―ゲストワーカーとしてオランダにやってきた人々の何が問題視されているのか?

 その大部分が都市部出身ではなかった。都市部から遠く離れた土地に住み、ほとんど教育らしい教育を受けてこなかった人々だった。モロッコだったらカサブランカのような大都市から来た人々ではなく、地方からやってきた人々だった。トルコも同様だ。

 イスラム教という異なる宗教の国からやってきたばかりか、オランダの近代的な都市文化に慣れていない人たちが来てしまった。様々な対立が発生することになる。

 移民の第2、第3世代は宗教を自分の隠れ場所として捉えた。オランダ社会の主要部分に受け入れられてもらえないと感じた人の一部が過激化し、「イスラム国」(IS)のメッセージに魅了されている。

 社会の中での居場所を見つけられなかった人はISのイデオロギーに染まってしまう。すべてを西欧的、資本主義的=悪、と見なすようになる。

 ウィルダース氏の政治家としての問題は、十分な解決策を示していない点だ。この21世紀で国境を閉鎖するのは不可能だ。アジアやほかの地域が急成長する世界で、欧州だけが閉じた状態ではいられない。イスラム教を禁止するのは信仰や言論の自由を規定する憲法にも反する。それにもかかわらず、ウィルダース氏はこの社会で無力だと感じる人々の声を代弁する政治家になっている。

―今や、ほかの政党も移民問題を論じている。

 ウィルダース氏が議論の流れを変えたのは確かだ。

 ルッテ政権は財政再建には成功したが、人々の移民やイスラム系市民の存在に対する懸念に耳を傾けてこなかった。なぜ世界が変わったのかを説明してこなかった。

 このために、多くの人が自由党に投票した。自由党が政権を取らないことを知っていても、怒りを表現したかったのだと思う。

―移民によって「仕事を奪われる」と感じる国民がいる、と。

 例えば、東欧のEU加盟国ブルガリアやルーマニアからやってくる人々がいる。オランダと比較するとこうした国の労働賃金ははるかに低い。オランダに来て、国内の通常の賃金よりも低い金額で働くので、オランダ人は職を失ってしまう。

 オランダ人のトラックの運転手が自分の半分の賃金で働くルーマニアの運転手に仕事が奪われるという事態が発生する。職を失ったオランダ人の運転手はこれがEUのせいだと思い、反EUの政党に投票してしまう。

 EUの見方にも誤算があった。新たにEUに加盟した旧東欧諸国に対し、EUは早く加盟国としてなじんでほしいと願った。民主主義、自由、法による支配という原則を味わってほしい、と。いわば、民主主義の文明開化を体験してほしいと願ったのだが、現実には新EU市民は低賃金で働くことでホスト国の人の仕事を奪い、ホスト社会の人々を不幸にしてしまった。

 EUの理想への信奉や、拡大に向かう動きはまだあるけれども、これによって多くの労働者を傷つける結果となった。

 大きな幻滅感があり、ウィルダース氏やフランスの国民戦線のルペン党首、そして英国のEUからの脱退を求めてきた英国独立党が人気を博すようになった。

 「EUに加盟しているのは良いけれど、家も職も失ってしまった」という人をたくさん生み出してしまった。

―エリート層は事態をどう見ているのか

 政治のエリート層は概して、まだEUの理想を信じている。しかし、統合が早すぎ、深すぎたことを認めざるを得なくなった。 リベラル過ぎたし、オープンな市場を実践しすぎた。

 加盟国の中でも英国はEUの価値を単一市場の存在と同一視してきたが、一方のドイツ、フランス、オランダは、欧州とは価値観を共有するコミュニティだととらえてきた。共通の法律、共通の理想、共通の原則を持つ存在なのだ、と。

―オランダのリベラリズムや「寛容」について聞きたい。

 16-17世紀以来、オランダが外に対して常にオープンで寛容であったのかどうか、あるいは生き残りのためにそうしていたのかについては、様々な見方がある。

 「あなたはカトリック教徒、自分はプロテスタント教徒だ。あなたは自分がやりたいことをやり、私もそうする」、と言うのが基本の形だった。だからといって、互いを好んでいたわけではない。誰もが社会を構成する少数派の1つであったために、表面的に受け入れていただけだ。深く関わっていたのではない。

 ユトレヒト大学で教える米国人の歴史家ジェレミー・ケネディ氏の最新の本によれば、オランダ人は自分たちがオープンで寛容だと思い、世界にもそうであるように思われたがっている。しかし、それほど単純なことではなかったのだ、という。オープンさ、寛容さは生き残るための術だったのだ、と。

―オランダは異なる宗派のキリスト教徒やユダヤ人を受け入れてきた歴史がある。なぜここに来て、イスラム教が争点となるのか?

 17世紀、18世紀、フランスから「ユグノー」(カルバン派プロテスタント)の知識人たちがやってきた。オランダの都市がオープンで国際的であったから受け入れることができたが、ビジネス面での利点もあった。本を買ってもらえるし、技術も入ってくるかもしれない、と。それほど大きな人数ではなかったことで、普通の市民は負の影響を受けなかった。

 しかし、移民の流入数が大きくなると事情は変わってくる。

 オランダの元植民地スリナムやアンティル諸島、そしてトルコやモロッコから熟練したスキルを持ってない人がオランダにやってきて、問題が表面化した。社会の下層にいる、スキルを持たない人に損害を与えるようになってきたからだ。こんな時、寛容はどこかに吹っ飛んでしまう。先住のオランダ人にすれば頭に来る現象だ。自分の家や仕事を奪われてしまうからだ。

 つまり、自分たちに損害を与えない限りにおいては、私たちは寛容だということだ。しかし、今はその寛容さの限度を揺るがせるレベルに到達しつつある。

―寛容さには限界があった、ということか。

 限界はある。私たちの寛容さは、決して私たちが清く美しい心を持つからそうなったのではなく、常に、現実的な理由からだった。このため、ある時点になると、寛容さが消えてしまう―心の底から発生した寛容さではないからだ。

 知的で、お金がたくさんある人だったら、寛容でいられる。しかし、自分の住む町の90%が世界各国の文化で一杯になる時、寛容さは無意味になってしまう。

―しかし、異文化あるいは移民への違和感を西欧社会で口に出すことは難しい。政治的に正しくないからだ。

 確かにそうだ。ウィルダース氏が異文化や移民に対する人々の全うな懸念に言及する時、どうしても非常に差別的な表現になってしまう。これがなんともつらい。 

 2014年、地方選挙の演説で「モロッコ人(移民)が増えるのと減るのではどちらがいいか」と聴衆に呼びかけ、「減るほうがいい」という声が上がると、ウィルダース氏は「よし、減らそう」と答えた。この一件で、ヘイトスピーチを行い国民を扇動した罪で有罪(昨年12月)となった。

 裁判官はウィルダース氏の発言を有罪とした。こんなことを言ってはいけないからだ。 犯罪者が少ないほうがいい、と言ってもよい。しかし、モロッコ人が少ないほうがいい、とは言ってはいけない。

 しかし、ウィルダース氏はあえてそう言ってしまう。これが人々の本音だからだ。

 さて、本当に「本音」なのか?

 胸に手をあてて問いかけてみれば、オランダ人はかなり寛容だと言えるだろう。ほとんどの人が、モロッコ人やトルコ人、ルーマニア人に国を出て行ってほしいとは思っていない。しかし、自分の生活を乗っ取られたくないとも思っている。

 例えば、こういうことだ。スカートをはいたオランダ人女性が自転車に乗って通りを走っているとしよう。オランダ内のある場所に行けば、彼女に「売春婦め!」という罵声が浴びせられる。伝統的なイスラム教の価値観を持つ人からの罵声だ。女性はもうオランダが自分の国ではないと思ってしまうだろう。

 イスラム教徒の女性で外出時にスカーフで頭髪を隠す人はたくさんいる。女性が通りでイスラム風のスカーフをかぶっていること、それ自体は全く問題ない。

 しかし、 ある女性が自転車に乗っているとき、罵声を浴びせられたり、自転車を倒されたりしたら、これは実に問題になる。

―筆者が住む英国では、公営のスイミングプールをイスラム教徒の女性専用に開ける自治体がある。その時には窓を全部占め、外からはのぞけないようにしている。

 民間のスイミングプールで私的にそうするのはかまわないだろうが、公営プールでこうしたことを要求した場合、オランダなら「それはオランダのやり方ではない」という声が出るだろう。

 比較的最近やってきた移民の市民がこれまでの法律を変えようとすることがある。こうした時、「申し訳ないが、ここは私たちの国だし、これが法律だ。順守してほしい」と先住のオランダ人は言うかもしれない。対立が起きる。

―選挙後、連立政権発足のために政治家の話し合いが続いている。新政権に何を望むか。

 新政権には大きな課題がある。人々の声に耳を傾けること。痛みを共有すること。困窮状態にある人を訪ね、支援し、行動に結び付ける。同時に、何世紀もかけて築き上げたきたこの国の法律に従わない人、イスラム教のシャリア法を導入させようとする人には、オランダは寛容になれないことを伝えるべきだ。

―オランダの下院選にはたくさんの政党が参加した。

 比率代表制になっている。28の政党が参加した。有権者は政党に投票し、得票率に沿って議席が獲得される。

 多くの異なる意見が選挙戦で出る仕組みだ。混乱状態となるが、私は様々な意見が出るという意味でよい制度だと思う。

 連立政権が成立するまでには時間がかかる。数か月はかかるだろう。それぞれの政党が妥協しなければならない。

―常に連立政権か?

 そうだ。比例代表制で多くの政党が参加するため、定数の半分以上を1つの政党が獲得することがない。独裁政権が生まれにくい仕組みだ。
 
 そこで、複数の政党が政権を発足させるために互いと話し合いをする。今回は4党か5党が一緒になりそうだ。様々な意見が集約される、良いシステムだと思う。

 私たちはこの話し合いの仕組みを「ポルダー体制」と呼んでいる(ポルダーとは「低湿地を干拓してつくりだした陸地」を指す)。それぞれが社会の少数人口を代表しているという前提の下で、落としどころを見つけてゆく。長い時間をかけて最終的なゴールに到達する。

―どの政党を支持しているか?

 政治記者になってから、一度だけ投票したことがあるが、それ以来、投票はしないことにしている。心を自由にしたいからだ。前に投票した時、どうも落ち着かなかった。

 政治記者はどの政党に投票したかを公表するべきではないと思う。自分の場合はさらにその一歩先を行って、一切、投票しないことにしている。私の役目は選挙について報道し、分析することだ。

****

 オランダの知識人の見方を紹介したほかの記事は以下です。よろしかったら、ご覧ください(タイトル部分をクリックすると、記事に飛びます)。

(東洋経済オンライン、3月23日付)

(現代ビジネス、3月17日付)

(朝日 Web Ronza、4月3日、課金記事)

# by polimediauk | 2017-04-14 16:34 | 欧州表現の自由
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(デイリーミラー紙23日付に掲載された、実行犯とみられる人物が警察に押さえつけられた場面。左端の警察官は実行犯が使ったナイフを右足で踏んだ格好となっている。)

 ロンドンのウェストミンスター議事堂(日本の国会議事堂にあたる)付近で、22日午後、テロ事件が発生した。

 23日朝現在までに、5人が死亡し、40人が負傷している。

 これまでの事情については様々な記事が出ているが、

 -今回のテロで「ローン・ウルフ(一匹狼的)アタッカー」が、ローテク(爆弾や銃などではなく、車を使う)によってテロを起こすという、欧州で発生した最近のテロのトレンドについて、東洋経済オンラインに寄稿している。(以下タイトルをクリックすると、記事が出ます。)


 -2005年のロンドンテロと比較して、どこが変わったのか、雰囲気はどうかなど個人的な印象を、BLOGOSに寄稿している。


 もしよかったら、見ていただけると幸いである。

 23日付の新聞を買ってみると、どれもテロがトップになっているが、実行犯と思われる人物の写真をいくつかの大衆紙は1面で報じていた(右端写真の横になってる男性)。ただし、この人物が本当にそうなのかどうかは分からない。「誤報」である可能性もある。

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 ロンドン警視庁は、「国際的なイスラム過激組織にインスパイアされた」犯行としているが、実行犯の身元情報を公表していない。

 夜が明けた今日、昨日途中で停止された議会が議事を進める予定である。

―日本大使館からのメール

 23日、ロンドンの日本大使館から送られてきたメールは以下。

ロンドン中心部(ウエストミンスター)におけるテロ事件の発生【更新】

在英国日本大使館
平成29年3月23日

1 3月22日14時50分頃,ロンドン市内ウェストミンスター橋の歩道を車両が暴走して多数の通行人を轢き,その後ナイフを持った男が英議会下院への侵入を試み警官1名を刺殺する事件が発生しました。警察当局の発表によると,この事件により,少なくとも犯人を含む5名が死亡,40名が負傷したとされています。なお,犯人1名は現場で警察官に射殺されています。
 英国当局は,本事件は犯人が国際テロリズムに触発されたという想定で捜査を進め,また,テロの脅威度「深刻(severe)」(5段階中2番目に高い)を継続する,今後数日間,ロンドン市内をはじめ全国で武装・非武装の警察官を多く配置するとしています。
 皆様におかれては,引き続きニュース等で関連の最新情報の入手に努めていただきつつ,外出時には周囲の状況に注意を払い,不審な人物や状況を察知したら速やかにその場を離れる等,安全確保に十分注意して下さい。

2 3月23日付で外務省海外安全ホームページに英国に対するスポット情報が発出されましたのでお知らせ致します。
【スポット情報】英国:ロンドンにおける英議会下院及び周辺でのテロ事件発生に伴う注意喚起
(PC)==> http://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo_2017C057.html
(携帯)==> http://m.anzen.mofa.go.jp/mblatestspecificspotinfo.asp?infocode=2017C057

3 本テロ事件の影響で現場付近への立ち入りが制限されています。暫くの間は,現場付近には近づかないようにして下さい。
*ロンドン市内の交通情報については,ロンドン交通局のホームページ(以下)等から入手できます。
【ロンドン交通局HP】https://tfl.gov.uk/traffic/status/?disruptionIds=TIMS-154737





 



# by polimediauk | 2017-03-23 18:20 | 英国事情
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(BBCの年次報告書を掲載するウェブサイト)

 「新聞協会報」(2月14日号)に掲載された筆者コラム「英国メディア展望」に補足しました。

英BBCが新体制に

 英国放送協会(BBC)が4月から、新たな「王立憲章」(ロイヤル・チャーター)の下で活動を始める。BBCはその存立と業務を規定する王立憲章と、BBCと担当大臣との間で交わされる「合意書」(王立憲章で規定された目的に沿って具体的な内容、サービスを詳細に記す)によって運営されている。後者は随時更新されるのに対し、王立憲章はほぼ10年毎に更新されてきた。

 新体制の特徴を見てみたい。

有料契約制、導入せず

 最新の年次報告書(2015-16年)によると、従業員数は1万8920人。英国の成人の96%がBBCのテレビ、ラジオ、オンラインのコンテンツのいずれかに毎週接している。

 主な収入は視聴家庭から徴収するテレビ・ライセンス料(NHKの受信料に相当、以下「受信料」)で、37億4280万ポンド(約5234億円)。これで国内の活動をまかなう。このほかに商業活動(出版、販売など)や交付金などの収入が10億8420万ポンド。合計で48億2700万ポンドに上る。民放最大手ITVの年間収入の約2倍だ。

 近年は、王立憲章更新に向けて活動範囲をできる限り拡大させたいBBCと巨大化への動きを阻止しようとする政治家やライバルメディアとの間で、活発な議論が繰り広げられた。

 争点の一つは受信料制度を存続するかどうかだった。全視聴家庭から徴収する受信料制度を廃止し、視聴したい人が有料契約(サブスクリプション)を結ぶ制度の導入をBBCは迫られた。もし有料契約制度になれば、BBCの収入は大きく減少すると見られている。

 しかし、政府との正式な交渉が始まる前に、BBCは政府と「手打ち」をする。75歳以上の視聴者がいる家庭は受信料の支払いが免除されるが、これまではこの分を政府が税金で負担していた。BBCは免除分を2020年度から全額負担することと引き換えに受信料制度の存続を政府との間で合意した。「正当な手続きを踏まなかった」と大きく批判されたが、いかにBBCにとって受信料維持が重要だったかを物語る。

 今回から王立憲章の有効期間が通常の10年ではなく11年となったことも新しい。英国では5年ごとに下院選挙が行われているが、王立憲章継続の議論が政治に左右されることを防ぐためだ。これに準じて受信料制度も11年間は変更しない。これまで凍結状態だった受信料は2021年度まではインフレ率とともに上がるため、経営陣にとっては朗報だ。

 ただし、動画をネットで視聴する人が増え、オンデマンドの動画サービスで有料契約制を採る米ネットフリックスが大人気だ。BBCのライセンス料制度は未来永劫には続かないだろう。

 大きな動きとしては、NHKの経営委員会にあたる「BBCトラスト」の廃止がある。トラストは新たなサービス導入の是非、経営陣のパフォーマンス、編集上の問題の最終処理に助言を行ってきた。人気テレビ司会者(故人)の性的虐待を追及する番組を取りやめたこと、関連調査報道番組での誤報、巨額を投じたデジタルプロジェクトの失敗が廃止決定につながった。

理事会に最終責任
 
 新たに発足するのが「BBC理事会」で、BBCの戦略、活動、番組制作に最終的な責任を持つ。14人体制で、理事長はイングランド中央銀行のクレメンティ元副総裁だ。4月3日から稼働予定で、クレメンティ氏は「特定の政党に所属する人物はメンバーに入れない」という。

 BBCトラストが担当してきた規制・監督もBBCの外に出る。これまでは、BBC以外の放送メディアは放送通信庁「オフコム」の規制・監督下にあった。今後はBBCもオフコムの管理下に入る。公益目的での番組制作・放送というBBCのミッションから逸脱するようなことがあれば、オフコムは制裁を科す権限を持つ。BBCには外からの風が大きく吹くことになりそうだ。

 BBCまた、4月以降、国際放送「BBCワールドサービス」で、朝鮮語を含む11言語による放送を新たに始め、インドや中東、ロシアを含む旧ソ連圏向けサービスを強化する。

 ワールドサービス放送は過去、政府の交付金で運営されていたが、緊縮財政により廃止され、14年度からBBCが受信料収入で負担している。2015年11月、政府が「安全保障における大綱」を発表し、BBCに対し16年度から政府資金を投入すると発表したことで事業拡大の道が開けた。19年度までの4年間で政府投入総額は2億8900万ポンド。ワールドサービスを含むBBCの国際発信メディアの利用者は世界で約3億人に上る。



# by polimediauk | 2017-02-23 19:39 | 放送業界

(新聞通信調査会発行の「メディア展望」1月号掲載の筆者記事に補足しました。)

「メッセージの時代」に生きている

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ネット上で誰もが気軽に情報発信ができるようになり、私たちは溢れるほどの情報に囲まれている。しかし、果たして書き手の意図は十分に読み手に伝わっているのだろうか?「読める」文章を書くための手助けとなるのが坪田知己氏による『21世紀の共感文章術』(文芸社)だ。

メディア環境の激変を見てきた坪田氏は、私たちが「メッセージの時代」に生きているという。「ネットで交換するメッセージの質」が問われるようになった、と。

 また、21世紀は「感性の時代」でもあるという。「『人間らしさ』が尊重される時代」に、一番大事なことは何か。著者はコミュニケーションにおける「共感」を挙げる。文章術においても「共感を呼ぶ」ことが「成否の分岐点になる」、と。

 著者は、これまでに出版された著名な小説家による一連の文章読本は文学を志す人には必読書でも、「日常的な文章を読み聞きする私たちには別世界」と結論づける。

 また、読解に頼りがちで「文学」と実用的な「文章」の区別をしていない日本の国語教育にも疑問を抱く。授業では生徒は文学作品を読まされることが多いが、「人生を生きていくうえで重要なのは、『コミュニケーションとしての日本語』ではないか」、と読者に問いかける。

本書のタイトルにも入っている「共感」=エンパシー=の今日的な重要性については、筆者も最近実感しているところだ。21世紀のメディアのキーワードといってもいいだろう。

ソーシャルメディアの共有機能や「いいね!」ボタンはまさに共感を通じて交流が行われていることを示す。デジタル収入を増加させるための動画の活用でも、「感情(エモーション)」や共感が視聴回数を増加するための鍵を握る。

本書による「いい文章」の要素は

何が言いたいのかが簡潔・明瞭、

リズム感があって読みやすい、

筆者の気持ちが伝わること。

興味深いのは中立公正の原則がある新聞記者が書く文章が必ずしも「ベスト」というわけではない、としている点だ。 

また、文章はあくまでも本人のものであり、講師のまねをしても「上手にならない」と釘を刺す。

本書の元になったのは、著者が2011年から開催してきた文章講座だ。2015年末までに参加した生徒数は約900人に上る。

一つの教室の生徒は約6人。全4回で、生徒が書いた文章を坪田氏が添削する。

本書には添削の具体例が多数掲載されており、添削前後の文章を比較しながら、コツをつかめるようになっている。 頭の中で分かったつもりでいても、実際に文章を書いてみなければ身につかず、添削指導を受けることで文章力が向上するという

文章講座での学びがどんどん活動の幅を広げていく。昨年東京・二子玉川で開催された講座終了後、受講した生徒たちが在宅ライターの仕事をしたいと申し出たことで、今年3月には「合同会社・Loco共感編集部」が設立された。都内数カ所で文章講座を開催し、企業からの記事執筆依頼を受けて仕事をする生徒たちも出てきた。今年2月には、講座参加者による文章を 「心の華」として自費出版するに至った。

本書の終盤で坪田氏は日本人が自律するためにも文章力、表現力の向上を願う、と書く。「人間が自律できているかどうかは、その人の意見表明によって確認できます。ところが、話し方が下手だったり、文章力が不足していると、意見がしっかりと他人に届きません」。

著者は中学校、高校の国語の正課として「文章の書き方」が教えられることを望む。「筆者の個性が輝く」ように教えて欲しい、とも。「ひとりひとりが『自分の文章』をしっかりと身に付けて成長すれば、日本はもっともっといい国になると思います」。


# by polimediauk | 2017-02-01 00:30 | 日本関連
 対ロシア強硬路線を敷いたオバマ前政権。トランプ氏の大統領就任で何らかの変化があるのかどうか世界中が注目する中、28日夜、トランプ氏とロシア・プーチン大統領が電話で会談を行った。両国にとって脅威となるイスラム過激派組織「イスラム国」などを掃討するために協力することで合意したという。

 対ロ制裁(2014年からロシアによるクリミア併合をめぐり、経済制裁を発動)を解消するかについての言及はなかったようだ前日27日、メイ英首相との会談後の会見では、トランプ氏は制裁の解除について「それを話すのはまだ早い」と答えている。

 今後、米ロ関係はどうなるのか?

 二人の専門家の見方を紹介したい。

 インタビューはもともと、東洋経済オンライン掲載の筆者の記事(「怪しい調査書」とは結局のところ、何なのか 元スパイが作成したリポートが政争の具に」)(1月24日付)のために行われた。以下はそれに若干の補足をしたものである。

 怪しい調査書(「Dodgy dossier」)とは英国の元スパイ(クリストファー・スティール氏)が書いたものである。現時点ではその信ぴょう性に疑問符がついているものの、プーチン大統領の指揮の下、ロシア側がトランプ氏の「不名誉な」情報(モスクワのホテルに売春婦数人を呼びこみ、ベッドの上で尿をかけあう「ゴールデン・シャワーをやらせていたなど)をつかみ、必要とあれば「脅す」こともできる、という内容だ。調査書には、ロシア側が米国に望むのは、例えば対ロ制裁の解除であると書かれていた(詳細について上記の拙稿をご覧いただきたい)。

 書き手のスティール氏は、現在、姿をくらませている。

調査書は「策略だった」

 
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(フィル・バトラー氏)

 ロシアや東欧事情について詳しい政治アナリストのフィル・バトラー氏は、筆者の取材に対し、こう答えた。
 
 「調査文書はトランプ氏の信頼を落とすための策略だったと思う。米国の大手リベラルメディアさえも(信ぴょう性についての確信が取れないということで)掲載しようとはしなかったし、米国の情報機関の専門家の多くも偽物だと見なした。タカ派のマケイン上院議員が情報拡散に動いたのも、軍事産業やネオコンによる中傷行為だったことが分かる」。
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(アラン・フィルプス氏)

 王立国際問題研究所「チャタムハウス」が発行する「ワールド・トゥデイ」誌のアラン・フィルプス編集長は、調査文書の内容の真偽は「分からない」という。事実関係は「メディアが探り当てることができる情報の範囲を超えている」。

 同氏はロイター通信社のモスクワ特派員として20年近くロシアに駐在した後、保守系高級紙デイリー・テレグラフの外信部長として働いた経験がある。
 
 書き手のスティール氏は英情報機関の間ではロシアの専門家としてよく知られていたという。ただ、「1990年代以降、ロシアには足を踏み入れていないようだ」。

 スティール氏への信頼感があったために、今回の文書が注目されているとフィルプス氏は見る。しかし、MI6という政府機関から商業目的の調査会社を立ち上げたことで、水準が落ちたのではないかと疑問を投げかける。

 商業目的の調査は「コーポレート・インテリジェンス(企業向けの機密情報」)」と呼ばれているが、ゴシップ的な話、例えば人がクライアントに対してどんな悪口を言っているかなどの情報を集めることが必須だという。後で衝撃的な情報が出ても、クライアントがそれほど驚かないようにするためだ。

 今回、暴露された調査書はそんな「ゴシップ話的な感じがある」。

 「もしロシア側が本当にトランプ氏の恥ずかしい行為について撮影をしており、これをもとに脅していたのだとすれば、相当深刻な事態となるが」。

「リセット」モードに入るトランプ大統領

 今後、米ロ関係はどうなっていくのか。
 
 「米国はロシアと敵対的な関係にある必要はない」とバトラー氏は言う。

 「トランプ氏はロシアとより前向きな二国関係を新たに築き上げようという、いわば『リセット』モードに入るだろう。長年続いてきた、互いへの不信感や不必要な軍事費の拡大の道を止め、実利的なアプローチをとってより前向きで希望に満ちた関係を作ろうとするはずだ」

 「冷戦が私たちに教えたのは、他国の脅威などの恐怖を大げさに取り上げて、自らの政策を有利に展開しようとすることの恐ろしさだった。トランプ氏とプーチン氏はたがいの違いを認めながらも、ビジネス及び政治面で折り合いをつけ行くだろう」。

 フィルプス氏によると、トランプ大統領は「国際的な体制が壊れていると見ている。普通の米国民が経済上損をしている、と。例えば、米国の敵になるのが、米国の雇用を『盗んでいる』国(例えば中国)、国外に仕事をアウトソースする大企業(例えばゼネラル・モーターズ社)、アウトソースされる先の国(メキシコ)だ」。

 ところがロシアは、「米国の労働者から仕事を奪うようなものを何も生産していない」。トランプ氏からすれば、米国とロシアには共通点がある。「『イスラム国』と戦うという目的がその一例だ」

 バトラー氏同様、フィルプス氏もトランプ大統領が米ロの二国関係を改善しようとすると予測する。

 しかし、「トランプ氏による『リセット』は長続きしないかもしれない」。プーチン氏は中東、欧州、アジアに影響を及ぼす大国として認識されたいと思っているが、米国がロシアを特別視せず、中国との関係により力を入れるようになったと感じた場合、認識のギャップが出てくるからだ。

 トランプ氏とプーチン氏の政治家としてのアプローチの違いも「不和」につながってゆくという。

 「トランプ政権は対ロ関係を良好にするための合意に署名して、次に進みたがるだろう。プーチン氏は長期的な観点から世界の中のロシアの地位を向上しようとしている。両者の世界観は大きく違う。急ぐトランプ氏はプーチン側に譲歩しすぎ、ロシアのウクライナへの支配権を認めてしまうかもしれないし、プーチン氏のやり方を誤解するかもしれない」。

 フィルプス氏は「今後1年で、両者が仲たがいをする可能性もある」と見ている。米ロ間の関係の急速な関係悪化はこれまでにあったからだ。

 ただ、単純に「破局には至らないだろう」。それは、トランプ氏はロシア政府が就任を望んでいた大統領だったという認識や、トランプ政権の国務長官(石油メジャー最大手エクソモービルのレックスティラーソンCEO)がプーチン氏から「ロシア友好勲章」をもらっていた(2013年)という事実が、「対ロシアの外交関係を複雑なものにする」からだ。
 
ロシア側情報源と見られる人物の「不審な」?死

 先の「調査書」は昨年秋ごろから、米英の主要メディアの手に入っていたと言われている。「真偽に確証が持てない」という理由で報道が見送られていたのだ。

 それにもかかわらず、今年1月上旬、米情報機関幹部らが調査書の概要をオバマ氏、トランプ氏に渡している。

 調査書の情報源のほとんどは「ロシアの情報機関係者(複数)」だ。

 昨年12月26日、元KGB(現在はFSB=ロシア連邦保安庁)の幹部で調査書の情報源の一人とされる人物、オレグ・イロンビンキン氏が自分の車の後部座席で亡くなっていることが発見された。死因は心臓発作とも言われている。
 
 イロンビンキン氏は、調査書に何度も出てくる人物イーゴリ・セーチン氏の側近だった。セーチン氏はロシアの元副首相でロシア国営石油最大手ロスネフチのCEOだ。

 調査書を書いたスチール氏は、7月16日付の項目の中で、トランプ陣営とモスクワを結びつける人物として、「セーチン氏に近い人物」を挙げていた。この人物こそ、イロンビンキン氏であったという説が浮上している(デイリー・テレグラフ紙、1月28日付)。

 テレグラフはブルガリアのシンクタンク「リスク・マネジメント」のクリスト・グロゼフ氏の見立てを紹介する。「調査文書の内容が本当であるかどうかはともかく、プーチン側は誰が情報を漏らしたのかを探し当てようとしている。イロンビンキン氏に注目したのは間違いない」(グロゼフ氏)。

 一方、ロシアの情報機関について詳しいマーク・ガレオッティ氏は「イロンビンキン氏のような人物が、まるでミステリー小説のように死ぬわけがない」として、ロシア政府あるいは情報機関による関与を否定している。

# by polimediauk | 2017-01-29 23:01 | 政治とメディア
 「フェイク・ニュース」(嘘のニュース)という言葉をよく聞くようになった。

 一言でいえば「デマ」だが、米大統領選の際に真実に見せかけたニュースがネット上で拡散され、これが大統領選の行方に影響を及ぼしたかどうかが争点の1つとなり、あっという間にはやり言葉になったようだ。

  米バズフィードの調べによると]、大統領選用に「ねつ造されたニュース」は、主要メディアの政治記事よりもエンゲージメントが高かった。

 大統領選の最後の3カ月間、Facebook上の選挙記事では、捏造ニュースのほうが、主要メディアのニュースよりも、高いエンゲージメントを獲得していたことが判明している。

 捏造記事サイトや特定政党に肩入れするブログが流した上位20記事が集めたエンゲージメントは871万だった。一方、主要メディア(ニューヨークタイムズやワシントンポストなど19サイト)の上位20記事は736万にとどまった。

 という。

 嘘のニュースがどんどん流れる中、既存メディアはそして私たちは何ができるのか?

 ロンドンにあるジャーナリストのクラブ フロントライン・クラブ」で25日、フェイク・ニュースをテーマにしたイベントが行われた。

 その時の模様を紹介したい。
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(左からBBCとFTの記者、司会者、チャンネル4ニュースの編集長)
 
 司会はロンドンシティ大学でメディアを教えるロイ・グリーンスレード氏。ガーディアンのコラムニストでもある。数々の新聞の編集幹部も務めた。

 パネリストはテレビの「チャンネル4ニュース」の編集長ベン・デピア氏(写真上の右端)。元は国際ニュースの編集部長。2011年の東日本大震災、スリランカの内戦、国際戦犯事件の調査報道など、チャンネル4ニュースは優れた国際報道を行う番組だ。

 ローリー・キャスリンジョーンズ氏はBBCのテクノロジー記者だ(写真上の左端)。

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 オーウェン・ベネット氏は英ハフィントンポストの政治部長(写真下の左端の眼鏡姿)。近著が「ブレグジット・クラブ」。

 ***

「フェイク・ニュースは昔からあった」

 キャスリンジョーンズ氏(BBC):フェイク・ニュース、いわゆる嘘のニュースは昔からあった。最近の現象ではない。

 大衆紙を見ると、今でも「嘘」のレベルのスクープ記事が連日出ている。先日も、「アルツハイマー病が完治する薬が見つかった」というある大衆紙の記事に「これはすごい」と驚いたばかりだが。

 嘘のニュースでも大きくなり、定説になってしまうこともある。私が担当する科学の分野だと、「新三種混合ワクチン予防接種で自閉症になる」という論文をある医師が科学雑誌に発表した。大衆紙大手デイリー・メールが報道し、大きく広まり、ワクチンの接種率が大幅に低下した。後で論文は撤回されたが、たった一人の医師の話が定説になってしまった。

 英国に住む人は、あるニュースが嘘か本当なのかをどの媒体が出したかで判断してきた。

 しかし今は、フェイスブックのタイムラインに様々な媒体のニュースが並列に出てしまう。経済紙フィナンシャル・タイムズのニュースであろうが、ほかの素性がはっきりしないニュースサイトのニュースであろうが、同列になってしまう。ここが問題なのではないか。

 デピア氏(チャンネル4ニュース):嘘の情報が出れば、こちらは検証し、「本当ではない」と提示する方式を取ってきた。

 しかし、ものの考え方が変わってきているのだと思う。「事実・真実は重要だ」という世界から、私たちは離れてしまっているのではないか。事実よりも感情の方が重要な世界に、である。

 ストレスになるほど情報が多いことも問題だ。あまりにも情報が多いので、じっくりと選別し、そしゃくし、事実かどうかを考える時間がない。そこで、誰か自分が信頼する人が言うことを信じる、という流れになっているのではないか。自分が事実かどうかを判断する、というのではなく。

 キャスリンジョーンズ氏(BBC):フェイク・ニュースが簡単に作れる、という面もあると思う。ソーシャルメディアであっという間に拡散もできる。

 マージャ氏(FT):フェイク・ニュースは確かにこれまでにもあった。フェイスブックがあるからフェイク・ニュースが出てきたわけではない。

 ただ、フェイスブックの利用者は世界中で17億人にも上る。フェイスブックは非常に大きなリーチ力を持つ。すべての情報が「等しい価値」で出てしまう。

 フェイスブックは策を講じているけれど、例えばフェイク・ニュースには注意を喚起するなどをしているようだが、効果はまだ分からない。

言論空間の隙をついて、出てきたのがフェイク・ニュース?

 キャスリンジョーンズ(BBC):米国のメディアは英国のメディアとは逆の部分がある。民放が強い米国ではテレビは多彩な意見を出すが、新聞は真面目な感じがする。英国では逆だ。公共放送BBCが強く、民放も規制が多い。新聞は思い思いのことを書けるし、多彩だ。フェイクニュースは米国の新聞メディアの言論空間の隙を突いて出てきたとも言えるのではないか。

 ベネット氏(ハフィントンポスト):ウェブメディアでは速さを要求される。例え間違った情報が入っていても、ニュースがどんどんシェアされてしまう。大衆紙のメールオンラインやデイリーエキスプレスが不正確なニュースを出すとき、こちらとしては事実確認した結果を流すけれども、その間に前のニュースが拡散されている。

 記事を作るジャーナリストはソーシャルメディアをチェックしているけれども、内容が正確かどうかということは見ていない。読者も記事があると、内容をすらすらっと斜め読みしている。

 記事の質がフェイスブックのいいね!やシェア率、ツイッターのリツイート数などで判断されてしまう世界がある。

 マージャ氏(FT): 前職はニュースサイトだったが、確かに、記事の正確性を確認する人はいなかった。

 キャスリンジョーンズ(BBC):でもチェックは少ない。信頼できるリポーターがやるから・・・・という判断だ。文字情報で出すときの方がチェックがある。

 デピア氏(チャンネル4ニュース):元々は新聞にいたが、1994年に英スカイテレビに入った。その時から事実チェックを徹底するよう言われてきた。

 フェイクニュースのポイントは意図的にねつ造しているニュースである点だろう。バズフィードによれば、東欧の青年たちが嘘のニュースを作っていた。ウェブサイトがヒットすれば、多くの広告収入が得られるからだ。

 マージャ氏(FT):デジタルニュースの収入源を広告に頼る限り、そうなるのではないか。

 トラフィックはフェイスブックなどのソーシャルメディアを通して得られる。だから、誰かがクリックしてくれる、シェアしてくれるようなストーリーが必要となる。ちょっとひねったストーリーなら、なおよい、と。

 国家レベルでのハッキングやねつ造情報が広がるのはもっと恐ろしいと思う。

 キャスリンジョーンズ氏(BBC):トランプ氏が大きな支持を得て、彼を支持するようなフェイク・ニュースが流布した、と。これは主要メディアがやるべきことをやってこなかったことも原因ではないか。

 政治家が嘘を言ったら、これを指摘し、十分に挑戦してこなかったのではないか。 

 ところで、私自身はFTを愛読しているが、「状況に詳しい人の話によると」という表現をよく使っている。一体こんな人が何人いるのかな、と思う。

 情報源を出さないと、メディアへの不信感につながるのではないか。

 ベネット氏(ハフィントンポスト):政治家はオフレコで話すことが多いから、どうしてもそうなる。ただ、情報源が一つだけの場合(=シングルソース)、記事を出さないとか、いろいろ決めている。

 マージャ氏(FT):FTも、少なくとも2つの情報源の情報を得てから出す、ということにしている。

 キャスリンジョーンズ氏(BBC):現状はメディアがその下地を作ったからではないかと思っている。不信感を抱かせるような報道がこれまでにあって、だから、視聴者・読者もシニカルになっているーどうせ本当じゃないんだろう、と。世論調査をするとジャーナリズムへの信頼感は低い。

 ベネット氏(ハフィントンポスト):誰を一番信用するかと聞くと、「友人」が上に来る。

どこからニュースを得ているか?


 デピア氏(チャンネル4ニュース):BBCラジオ4の朝の番組「トゥデー」、BBC全般、もちろんチャンネル4も、英ニュース週刊誌「エコノミスト」-。まだあるが。

 マージャ氏(FT): FTをのぞけば、ツイッター。ニューヨークタイムズ、ニューヨーカー、BBC.

 キャスリンジョーンズ(BBC):BBC以外には、ハフィントンポスト、ツイッター(ジャーナリストのリストを作っている)、FTー。

 グリーンスレード氏(司会):ガーディアン、タイムズ、ほか複数の新聞、「トゥデー」、ツイッター。

どうするべきか?

 デピア氏(チャンネル4ニュース):トランプ氏の支持者は彼が嘘をついていることを知っていた。それでも支持していた。なぜかを考えるべきではないか。

 キャスリンジョーンズ氏(BBC):フェイク・ニュースは以前からあったが、米大統領選のように、リアルで影響を及ぼすようになった。「事実は重要だ」という原則をしっかりと守っていくこと。

 マージャ氏(FT):教育ではないか。フェイスブックのタイムラインに出るニュースにはゴミみたいなものもある、ということを。

 ベネット氏(ハフィントンポスト):大衆紙の報道には大げさな誇張や嘘がある。それでも人々はその新聞を買っている。自分の気持ちを代弁してくれる、何かがあるからだろう。トランプ氏の言説に嘘があったとしても、人々は投票した―ほかの候補者では満たされない、何かがあったからではないか。この点を充分に見てゆくべきだ。

****

イベントが終わって


 印象に残ったのが「フェイク・ニュースはこれまでにもあった」という点。それから、「事実よりも感情を重要視する傾向が出ている=新たな世界か?」という提起。

 ガーディアンのサイモン・ジェンキンス氏も指摘しているが、「フェイク・ニュース、フェイク・ニュースとそれほどがたがたするな」という論考を英メディアで目にする。

 確かに、英国で新聞を開くと、ピンからキリまで、「真実」から「大幅な誇張(嘘)」までがもろもろだ。何が事実・真実なのか分からない状況である。「今さらフェイク・ニュースということで、大騒ぎするな」という気持ちが分かるような気がする。

 フェイク・ニュースというと「メディアリテラシーを高めよう」という話になるが、筆者流に平たく言えば「いろいろな人の話を聞いたり、メディアに触れたりして、自分の感覚を磨こう」ということになる。たいていの場合、「?」と思った記事にはどこかにおかしな情報が隠れている。「?」と思わなかった場合、それは…仕方ないのである。全てを一度に解明はできない。

 心配なのは嘘が出ることよりも、「嘘でも構わない」と思ってしまうことだ。「どっちでもいい」、「誰それさんが言ったことだからいい」となって、真実・事実が二の次になっても平気になることだ。これが極端になれば、「もう一つの事実」の世界に入ってしまう。

 「100%、誰にとっても事実・真実というのはありえない」という考え方もあるが、できれば客観的な事実は事実としてきちっと知りたい…少なくともそういう感覚を持ち合わせていたいものだ。

# by polimediauk | 2017-01-29 02:22 | 政治とメディア
(「新聞協会報]」10月18日掲載の筆者記事に補足しました。)

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ソーシャルをニュース源にする比率のトップはギリシャ
(ロイター、デジタルレポート)

 ソーシャルメディアー。日本ではいまだに、「一部の人がやるもの」という認識はないだろうか。市民レベルではそうではなくても、伝統的なメディア組織の中では、という意味でだが。

 インターネット上には、あふれるほどの情報が飛び交っている。ニュースメディアにとって、自社が発信するニュースをいかに読者に見つけてもらうかが課題となった。ソーシャルメディアを通じて読者とつながり、ニュースを「発見」してもらうことが鍵になる。

 英ロイタージャーナリズム研究所が欧米、日本、韓国など26か国で約5万人を対象に調べたところ、ソーシャルメディアでニュースに接する人は51%に上る(「デジタルニュースリポート 2016」)。ソーシャルメディアを「一部の人がやるもの」としていた時代は過ぎ去った。

 英国の主要メディアはソーシャルメディアの利用指針を定め、適宜更新している。

 BBCの指針(2015年版)は、ソーシャルメディアを「編集の仕事に欠かせない」ものと位置付ける。

 (1)視聴者は役立つ情報や価値のあるコンテンツを見つけられる

 (2)BBCは視聴者と簡単につながり、未開拓の視聴者にジャーナリズムを届けることができる

  のが利点だという。

[[image:image01|center|ロンドンの暴動をガーディアンは刻一刻と報じた(ウェブサイトより)]] 

 ソーシャルメディアを使ったジャーナリズムの事例としてよく知られているのが、11年夏にロンドンで起きた暴動をめぐるガーディアン紙の報道だ。

 当時、ポール・ルイス記者は暴動の発生から数日間、スマートフォンを使いロンドンの様子をツイッターで実況中継した。ほとんどガーディアンのオフィスには戻らず、目撃した暴動や人の動きを写真、動画も使い伝えた。自ら見聞したことをつぶやくだけでなく、他のフォロワーや他のメディア・アカウントによるツイートを再投稿(RT)したり、関連情報を集めるためにハッシュタグを使用したりした。

 ルイス氏のツイートはガーディアン紙による5種類の「ライブ・ブログ」に掲載された。数人のスタッフが刻々と事件の発生をつづる。社内の記者が原稿をまとめ、サイトと紙版の両方に記事が載った。

 事件発生の第1報をソーシャルメディアに出す手法は、英メディアでは主流となった。他社に後追いされる危険もある半面、情報の一部を出すことで読者の関心を引くことができるからだ。

 BBC、スカイニュース、ガーディアン、フィナンシャル・タイムズ(FT)など大手メディアは、記者がツイッターで情報発信することを奨励している。事件の発生時には経過を刻々と報告するライブ・ブログを立ち上げ、記者のツイートをブログに盛り込む。

 同時に、番組やニュースサイト、紙面に記者や関連のツイートから得た情報を生かす。

 余談めくが、英メディアのソーシャルメディア使いを見ていると、日本の伝統的メディア組織の考え方とは違うように感じることがある。

 日本の伝統的メディア組織ではソーシャルメディアは読者=オーディエンス=誰かほかの人=がやっているもの、という感覚があるような気がする。「オーディエンス」の中に、自分が入っていないような。

 ところが、英メディアではメディア界で働く人自身が(その人も市民であるわけだし)ソーシャルメディアを使っており、オーディエンスの中に自分も入っている、という感覚がある。

 この差は結構、大きい感じがする。

==計測対象となるソーシャル==


 欧州のニュースメディアが近年力を入れているのが、閲覧者の行動分析だ。滞在時間のほか、読者への到達を示すソーシャルメディアからの流入率も重視される。

 編集局にはどの記事がどれだけネットで読まれ、どのソーシャルメディアを通じ自社サイトに流入しているかや、競合相手となるメディアの記事の動きなども表示するモニターが置かれる。分析には米チャートビート社などが提供するソフトが採用されている。

 FTは得られたデータを一覧表示し、編集・販売をはじめ全社的に共有する。

 ドイツのヴェルト紙は流入率、滞在時間など複数の項目を基に、記事ごとに点数をつける。その結果を毎朝、記者に電子メールで流す。

 「ソーシャルメディア・エディター」という編集職が設けられ、この人がチームのメンバーとともにニュースの拡散状況を追う。

 FTでは「オーディエンス・エンゲージメントチーム」が、ソーシャルを含むプラットフォームにどの記事をいつどう出すかを記者、デスクとともに決めている。チーム統括のルネ・キャプラン氏は、自社サイトへのアクセスが「20~30%増加した」と話した(15年11月18日付、英専門サイト・ジャーナリズムUK)。

 ヴェルトは閲読数の少ない記事をサイトの目立たない位置に移動させたりするという。一方で「重要な記事は、読者数に関係なく、目立つ場所に置く」ことで質を維持している。

 FTやデンマークのタブロイド紙エキストラ・ブラデットが記事を閲覧する時間帯を調べたところ、朝昼夜の一定の時間にピークがあり、端末の選択も時間により変わることが分かった。

 これは、真夜中の最終版に向け制作していた紙版の時代と、読者との関係が変わったことを示す。

 読者は好きな時に好きな場所で好きなフォーマットでニュースを閲覧している。

  デジタル・ファーストを実践する欧州各紙は「どのようにコンテンツを制作し、いつどう届けるかを考えて出す」方式に転換している。

# by polimediauk | 2016-10-25 19:02 | 新聞業界
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「ワールド・プレス・トレンズ」を報告するペイレーニュ専務理事(WAN-IFRA)

 (新聞通信調査会発行の「メディア展望」9月号掲載の筆者記事に補足しました。)

 去る6月12日から3日間、南米コロンビアのカタルヘナで、世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)による第68回世界ニュースメディア大会が開催された(ちなみに、かつては「世界新聞大会」と称していた。「ニュースペーパー」が今は「ニュースメディア」に変わっている)。参加者は約700人のメディア幹部だ。

 大会のハイライトを紹介したい。

「自由のための金ペン賞」はロシアの新聞へ

 報道の自由を振興するために毎年贈られる「自由のための金ペン賞」。今年の受賞者はロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリ・ムラトフ編集長となった。ノーバヤ・ガゼータは、現在のロシアで権力者に対して批判的な報道を全国的な規模で行うことができる唯一の新聞と言われ、汚職、人権侵害、権力の乱用などについての調査報道で知られる。(英語版もある。)

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(ノーバヤ・ガゼータのウェブサイト)

 同紙は1990年、ムラトフ氏と約50人のジャーナリストが立ち上げた。「正直で、権力から独立し、質の高い」新聞を作るのが目的だった。創刊からこれまでに、報道の報復としてあるいは原因不明の理由で6人の記者が殺害されている。編集部員の多くが何らかの脅しを受けるのは日常茶飯事だ。最も著名な例がチェチェン問題を鋭く追ってきたアンナ・ポリトコフスカヤ記者の殺害だ。2006年10月7日、同記者は住んでいたアパートのエレベーターの前で射殺された。誰が射殺を命じたのかは分かっていない。

「ワールド・プレス・トレンズ」発表

 毎年大会開催中に発表される、世界の新聞界の状況をリポートする「ワールド・プレス・トレンズ」によると、世界中で紙の新聞を読んでいる人は約27億人。総発行部数(7億1878万部)は前年比で4.9%増加し、5年間の比較では21・6%増。これはインド、中国他のアジア地域での増加が貢献しているためだ 識字率の向上、経済成長、1部売りの価格の安さなどが理由だ。世界中で発行されている紙の新聞の中で、インドと中国の2カ国での新聞の発行部数が占める割合は2015年で62%に上る。前年は59%だった。

 地域別にみると、アジアでの部数は前年よりも7.8%増。ほかの地域はすべて減少した。

 減少率の低い順から見ると、北米(2.4%減)、ラテンアメリカ(2.7%減)、中東とアフリカ地域(2.6%減)、欧州(4.7%減)、オーストラリアとオセアニア地域(5.4%減)。5年間の比較で見ると、アジアは38.6%増であったのに対し、中東とアフリカ地域は1.2%減、ラテンアメリカが1.5%減、北米が10.9%減、欧州が23.8%減、オーストラリアとオセアニア地域が22・3%減。

 増加組のアジア地域と減少の度合いがきつい欧米+オーストリア・オセアニア地域との落差が激しい。

 2015年における世界の新聞社の総収入(広告と購読料の合算)は推計1680億ドル(約17兆円)。前年より1.2%減、過去5年間で4.3%減となった。14年に続いて購読料収入(900億ドル)が広告収入(780億ドル)を上回った。今後も前者が上回る傾向が続き、その差はどんどん開いてゆく見込みだ。

 新聞社の収入の92%は紙媒体から生じている。世界の7つの大きな新聞市場は米国、日本、ドイツ、中国、英国、インド、ブラジルで、この地域の国の収入が全体の半分以上を占め、日刊紙の発行部数の80%を占める。

 比率としてはまだ微少だが電子版の売り上げは二ケタ台の伸びを見せた。2015年(30億ドル)は前年より30%増、5年間では547%増だ。多くの地域で、紙媒体の発行減で失われた収入を補填するところまで来ている。調査対象となった国の中では、5人に1人がオンラインニュースを有料で購読していた。

モバイルへ

 2015年、世界のスマートフォン出荷量はこれまでで最高記録の14億台に達した。世界の人口の30%近くがスマホを所有している。

 モバイルの成長はニュースメディアにとって大きな機会となっている。米国では80%が、オーストラリアやカナダでは70%がデジタル機器でニュースを読む。米新聞協会の調べでは、米国で新聞をデジタルで読む人の半分がスマホやタブレットなどをデジタル機器で利用している。

 コムスコアによると、米国のデジタルメディアの首位10サイトで37%のオーディエンスがモバイルのみでアクセスしており、31%がモバイル及びデスクトップでアクセスしていた。フランス、ドイツ、日本、オーストラリア、カナダでは、成人人口の3分の1がモバイルでニュースに接しており、この比率は急速に伸びている。

 デスクトップを使うオーディエンスは継続して減少している。米国、カナダ、英国、イタリアではスマホを使ってネットを利用する時間がデスクトップを使った場合の時間を超えている。

 スマホやタブレットがより利用されることになったことで、データを利用するサービス、例えば動画視聴が増えている。シスコが予測したところによれば、2019年までにモバイルによるデータ利用は年間66%増加する。16歳から34歳では95%が動画を視聴し、55-64歳で10人中8人が動画を視聴する。

 フェイスブックで動画を視聴する人は世界で90億人、スナップチャットでは80億人、ユーチューブでは40億人に達している。

 米国でアプリ利用の75%はモバイル機器による。コムストアによれば、トップ5のアプリが利用者の滞在時間の88%を占めている。スマホ利用者の大部分はソーシャルメディアやエンタテインメント関連のサイトに時間を使っている。

広告市場は

 新聞のデジタル広告の収入は全体からするとまだ小さいが、2015年(93億ドル)には前年比で7・3%増加している。5年間の比較では51%だ(PwCグローバル・エンタテインメント・アンド・メディア・アウトルウック2016-2020による)。

 デジタル広告収入の拡大で最も恩恵を受けるのは、相変わらずソーシャルメディアやテクノロジーの会社だ。グーグルが最大で、検索やユーチューブの収入を合わせて670億ドルを稼ぐ。

 フェイスブックの広告収入の80%(約130億ドル)はモバイル機器から生じている。中国ではTencentやBaiduが圧倒的な位置を誇る。

 2015年、すべての業界のネット広告の収入は1700億ドルに上ったが、世界中で広告ブロックを使う人が増えており、今後どのように推移するかその先行きは不透明だ。

 広告ブロックについての調査会社ページフェアによると、モバイル・ウェブ上で広告をブロックする人は4億1900万人に上る。これは19億人のスマホ利用者の中で22%に当たる。2015年、モバイル広告のブロッキングは前年よりも90%増加した。

 プログラミング広告は急速に伸びており、欧米などの成熟した市場ではデジタル広告の半分が自動的にトレードされるようになっている。WAN-IFRAは警告を発している。自動トレードされる広告は出版社、消費者、広告主に恩恵をもたらすかもしれないが、アルゴリズムの生成には信頼性、文脈、設計に考慮すること、質を高めることが重要だ、と。そうでないと、ブランドに損害を与え広告価格を下げることにもなりかねないからだ。

 世界の広告市場を媒体別に見ると、最大はテレビの37%。これに続くのがデスクトップやモバイルのインターネット(30%)、新聞(12.7%)、雑誌(6・5%)、戸外及びラジオ(0.7%)、映画(0.6%)の順となった。

 紙媒体の広告収入は世界全体で7・5%減少し、5年間の比較では24%減。1990年代半ば以降、ネット広告は紙媒体の減少を補う形で伸びてきた。2015年には前年比18.7%増、5年前からは102%増。

 紙の新聞の広告収入が増加したのはラテンアメリカのみ(0.3%増)で、他の地域はどこも減少した。オーストリア・オセアニア地区(15.5%減)、アジア大西洋地区(9.7%減)、北米(7.2%減)、欧州(6.2%減)の順となった。

 ニュースメディアが生き抜くにはどうするか。

 WAN-IFRAのヴィンセント・ペイレーニュ専務理事は「多様化」を挙げている。具体的には広告主への投資(広告主とともにより訴求力の高い広告を作るなど)、電子コマース、イベント事業を行う、メディアやオンラインのスタートアップ企業を買う、など。

生き残りへ社内改革を推し進めた仏ルモンド

 フランスの左派系夕刊紙「ルモンド」(1944年創刊)は、2010年、破たんの間際まで追い込まれた。メディア環境の激変に対処できず、負債が1000万ユーロ(約11億円)に膨らんだが、ラザード銀行の銀行家マチウス・ピガッセ氏、ネットビジネスで財を成したザビエル・ニール氏、イブ・サンローランの共同経営者であったピエール・ベルジェ氏が新たに投資をすることで生き延びた。

 ルモンドグループの社長となったのがルイ・ドレフュス氏だ。「イノベーションの機運を取り入れる」、「才能ある編集スタッフに投資する」、「新たなデジタル戦略を導入する」を柱として、新規まき直しを開始した。

 2011年以降、ルモンドはいくつもの新しい製品、パートナーシップ、イニシアティブを繰り出してきたが、鍵はスピードだった。かつては新たな取り組みを行うのに数年かけていたが、今は3か月単位で考えている。

 オフラインの新たな試みの1つは2014年から始めた「ルモンド・フェスティバル」。読者が編集スタッフと触れ合う場を提供する。様々なテーマについてのディベートが行われる。

 世界ニュースメディア大会で注目されたツールとして、動画、VR(バーチャル・リアリティー、仮想現実)、メッセージ・アプリがあった。

 動画活用については、最も成長度が早いウェブサイトの1つと言われるRefinery29がその実践を紹介した。

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(「Refinery29」の画面)

 Refinery29は2005年に米国で発足し、現在は毎月、2000本を超える記事を掲載する。ウェブサイトへの月間ユニークビジター数は2500万人。モバイルを含めたすべてのプラットフォームでは1億7500万人。電子メールの購読者は200万人だ。

 収入源はブランド品のスポンサー広告が主だが、「ファッションブランドを売るためのサイト」という定義をはるかに超え、女性たちの意識を変えるサイトとして成長している。内容はファッションや美容以外に環境、政治、女性問題、ヘルス、スポーツ、エンタテインメントと幅広い。昨年11月には英国版、今年6月にはドイツ語版をローンチした。フランス語版の開設も視野に入れる。昨年の総収入は8000万ドルを超えた。

 ブランド情報の拡散には「インフルエンサー」を使う。これはソーシャルメディアを通じて情報を拡散する影響力がある人物のことで、Refinery29は一定の報酬を支払っている。

 動画ブームが続く中、Refinery29の動画担当者は「あまり人手もお金もかけずに取り組みたいメディアへのアドバイス」を披露した。

 「鍵はなるべく簡単に自前でやってしまうこと、既存のツールやプラットフォームがあれば、それに乗ること」。

 最初の頃の動画の1つは、スタッフがスケートボードをする様子をほかのスタッフが撮影し、アップロード。「すでにある機材を使って作った。特に品質が高いものでなくてもよかった」。動画は記事に付随した形で制作し、動画の後に記事のアドレスを付けた。フェイスブックのインスタント・アーティクルズにも参加。「特にマーケティング費用を使って宣伝しなくても、検索のアルゴリズムが宣伝してくれる」。ツイッターやメッセージ・アプリ「スナップチャット」の「ディスカバー」チャンネルにも参加している。

次はVRやメッセージ・アプリ

 VRを利用したジャーナリズムについてのワークショップやセッションに参加してみた。

 スマートフォンを段ボール製ビューアーにくっつけて360度画面を体験するワークショップでは、「ジャーナリズムにどう使えるのか、まだはっきり見えない」などの意見が出た。ワークショップのオーガナイザーによると、「VRは実験段階にあり、何をやってもよい」、「どんどんトライしてみるべきだ」という。

 メッセージ・アプリや「ニュース・ボット」(自動的にニュースを収集して配信するプログラム)の活用例も複数のセッションで取り上げられた。

 モバイル・アプリの利用が盛んなブラジルでは、メッセージ・アプリ「ワッツアップ」に対応していない新聞社はないという。

 「メッセージ・アプリを通じて読者にリーチしないと、新聞社は生き残れない」(教育プログラム「ナイト・センター・フォー・ジャーナリズム・イン・ザ・アメリカス」の創始者ローゼンタール・アルヴェス氏)。

 ソーシャルからメッセージ・アプリへ。これからのジャーナリズムの形が見えてきた。

****補足です****

メディア展望」9月号に拙稿以外に興味深い記事がたくさん掲載されています。
 
 例えば「パナマ文書取材の舞台裏」では、この報道にかかわった共同通信の澤康臣記者の講演記録が出ています。

 掲載から1か月を少し過ぎますと、ウェブサイトからダウンロードできますので、アーカイブ号も含め、ご覧ください。

 



# by polimediauk | 2016-10-02 20:00 | 新聞業界
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(ロンドン漱石記念館と恒松館長 記念館提供)

 『坊ちゃん』、『吾輩は猫である』、『こころ』、『明暗』などの小説で知られる文豪夏目漱石(1867-1916年、本名:夏目金之助)が、今から116年前にロンドンに留学していたことをみなさんはご存じだろうか。

 漱石は帝国大学(現東京大学)英文科を卒業した後、英語の教師となり、高等師範学校や愛媛県尋常中学校に赴任。その後熊本の第五高等学校で教えていたところ、文部省から英語教育法研究のために英国留学を命じられた。英国留学生の第1号だ。1900年秋の渡航当時は33歳。すでに結婚しており、1歳になる長女がいた。帰国に向かったのは1902年12月。2年余りの留学生活だった。

 当初はユニバーシティー・カレッジ・ロンドンで英文学の授業を聴講していたが間もなく行かなくなり、英文化、英文学の研究に没頭するようになる。

 在英中、漱石は下宿を5回変えている。最後の下宿の真向かいの住宅を自費で買い上げ、1984年に「ロンドン漱石記念館」をオープンしたのは漱石研究家として知られる恒松郁生さんだ。漱石について書かれた書籍、漱石が留学中に読んだと思われる雑誌、購入した本、文部省からの辞令のコピーなど、漱石のロンドン滞在にまつわる様々な資料や写真で一杯だ。

 漱石にとってロンドンの生活は文学の道に進むための大きな転機になったといわれている。

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(皇太子さまも以前に訪れたことがある)

 過去32年間、記念館は漱石研究者やファンにとって欠かせない場所となってきた。しかし、来月からは事情が変わる。少額の入館料を取るものの、運営費・維持費、さらにはもともとの資料集めをすべて手弁当でやってきた恒松さんは、9月末で、記念館を閉めることにしたという。今年は漱石没後100年に当たり、一つの区切りとなりそうだ。

 毎週水曜と土日に開館してきたため、最終日は28日になる。ロンドン近辺にいらっしゃる方はぜひ、足を運んでみていただきたい。

 漱石の小説を読んだことがある人であれば、作品のイメージが広がる資料が見つかりそうだ。また、題名しか知らない人も、あるいは題名さえ知らない人でも(!)、「外国=英国」+「日本人」について考えるきっかけになるかもしれない。

「ブループラーク」を得た初めての日本人

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(「ブループラーク」がついている最後の下宿)

 筆者はこれまでにも何度か記念館を訪れたことがあったが、いよいよ閉館がまじかに迫り、あらためて行ってみることにした。

 クラパムジャンクション(Clapham Junction)という駅で降りて、10分強歩く。やや遠いように感じるかもしれないが、漱石もこの道を歩いたのかなと思うと感慨深く、時間はあっという間に過ぎる。

 「ザ・チェイス」という通りに至り、「80A」というビルを探す。現在は改修中で梯子などがかかっていた。よく見ると、壁の一部に「ブループラーク」が掲げられている。著名人の住居を示す印で、日本人でこのプラークが付けられたのは、漱石が初めてだ。

 80Aのビルの真向かいにあるのが漱石記念館(80B)になる。ブザーを押してドアを開けてもらい、中に入る。

 恒松さんは現在、熊本市にある崇城(そうじょう)大学の教授をしているため、ロンドンで記念館を運営しているのは妻の芳子さんだ。

 芳子さんに入館料4ポンドを払い、暖炉の上にある大きな夏目漱石の肖像画やガラスケースに入っている資料を順繰りに見てゆく。英語と日本語で説明が入っている。開館後間もなく、皇太子さまが訪れたという。壁に貼られている過去の新聞記事(日本語)や資料を読みながら、漱石がどんな生活をしていたのが分かるようになっている。

 ちょうど来館者が数人いて、芳子さんに漱石滞在当時の話を聞いている。資料について、あるいは漱石の人生について館長や芳子さんからさまざまな話が聞けるのも記念館のだいご味だった。

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(「イラストレーテッド・ロンドン・ニュース」が置かれている)

 図書室のようになっているコーナーにあったのが、当時漱石が目を通したかもしれない雑誌の数々、例えば「イラストレーテッド・ロンドン・ニュース」など。このような資料を実際に手に取り、ページをめくることができる。
 
100年以上前の実際の雑誌や漱石が読んだ書籍を集めるには、相当の熱意と投資が必要だったに違ない。熱意の度合いは恒松さんの探偵を思わせる調査力にも如実だ。漱石がダリッジ美術館のビジターブックに残したオリジナルの署名を発見したり、個人授業を受けたクレイグ先生のアパートを突き止めたりー。貴重な事実・資料を次々と見つけていった。

ロンドンで奮闘する漱石に自分を重ね合わせる

 何が恒松さんを突き動かしたのか?

 恒松さんは鹿児島県出身。桜美林大学文学部の英米文学科を卒業後、英国に渡ったのが1974年。ホテルマンとして働きながら、大学で勉強もしていた。

 漱石と出会うのはこの頃だ。自伝とも言える『こちらロンドン漱石記念館』(中公文庫)によると、恒松さんは最初から英国生活にすぐになじめたわけではなかったようだ。

 渡英後1年もたっていない、ある秋の日。授業についていけず、教室を抜け出す。ロンドン塔まで歩いたが、来ていたコートのポケットにはなぜか漱石の『倫敦(ろんどん)塔』の文庫版が入っていた。

 歩き疲れてベンチに座り、漱石の本を読み始めたー。そして、何と漱石自身が最初からロンドンになじんでいたわけではないことを知る。

 漱石はロンドン市内に出て、方角がよくわからず、「どこに連れて行かれるか分からない」という思いを抱く。「まるで御殿場のうさぎが日本橋の真ん中に放り出されたような心持ちに」なった。

 この時、恒松さんは「漱石の気持と、落ち込んでいた自分の気持ちが相通じたような気がした。大文豪夏目漱石ではなく、一留学生夏目金之助に触れたような思いだった」と書いている。

「自分と同じような心境にあった、おどおどした、非常に孤独な」一人の人間「夏目金之助に共感を覚えた」恒松さんは、このときから、ロンドンで暮らした漱石のことを調べてみようという気持ちになった。

 そして、漱石のいくつかの下宿が実際にどこにあったのかを調べる仕事に着手してゆく。

 筆者が「ロンドン」+「漱石」に惹かれてしまう原点も、実はここにある。

 筆者はロンドン塔で『倫敦塔』を読んだわけではないが、外国で暮らす人は誰しも、一種の心細さを感じたり、自分とは何かを問うときがあるものである。

 自国では当たり前のように得られる治安の良さ、家族や友人による支援ネットワーク、「言わなくてもわかってくれることへの了解」などがすべて吹っ飛んでしまう。すべてがチャラになる。ではいったいどうやって生きていくのかーー誰もが自分なりに答えを出す必要に迫られる。

 決して多くはなかった留学費、家族とは遠く離れ、英国人の友人を作れないままの生活ーそんな漱石は文学の研究をすることで、彼なりの何かを掴んで帰国する。

恒松さんのその後

 恒松さんは旅行会社を経営するようになり、大英博物館の前で古書を扱う書店業も営んだ。ビジネスに携わる一方で、漱石の研究を同時に続けた。漱石についての研究本や作品の英訳本を出版した。漱石と同時期にロンドンにいた画家牧野義雄についての研究もするようになった。恒松さんは牧野を「発見した」人物である。

 数年前からは崇城大学で教鞭をとっているが、執筆業は依然として続けている。ロンドンのマークス古書店と米作家へレーン・ハンフの交流を記録した『チャリング・クロス84番地』(中公文庫)という本があったが、2013年、恒松さんはハンフのロンドン訪問記を『続・チャリング・クロス街84番地』(雄山閣)として訳出した。本の中で紹介されている場所や建物を訪ね、写真をたくさん入れた、恒松さんらしい本となった。

 記念館の閉館で、資料はいったん恒松家に収納されるという。

 一般の人が訪れることができるスペースが消えてしまうのは残念だ。常設スペースを作るための支援ができないものだろうか。

ドキュメンタリー映画も

 一方、漱石の足跡を約半世紀も研究してきた恒松さんのドキュメンタリー映画の撮影が進行している。監督は「インパール1944」(2014年)や「杉原千畝を繋いだ命の物語」(2016年)などの作品がある、在英の梶岡潤一氏だ。

 公開は来年夏の予定という。

開館時間(最終日):11:00~17:00 (最終入場は16:30)
入館料:大人£4 / 学生£3(要学生証提示)
80B The Chase, London SW4 0NG


# by polimediauk | 2016-09-26 16:46 | 英国事情

(朝日新聞の月刊メディア誌「Journalism」8月号に掲載された筆者記事に補足しました。)

スマートフォンの普及によって、ニュースをモバイル機器で閲読する行為は多くの人にとって習慣の1つとなった。

英ロイター・ジャーナリズム研究所が毎年発表する「デジタル・ニュース・レポート」の2016年版によると、調査対象となった26カ国(内20カ国は欧州諸国)に住む約5万人の中で53%がスマホを使ってニュースに接触していた。全米新聞協会の調べでも新聞社のデジタルコンテンツを消費する人の半分以上がモバイル機器の(スマホあるいはタブレット)のみを使っているという。

一方、世界新聞ニュース・発行者協会(WAN-Ifra)がまとめる「世界プレス・トレンズ」最新版によると、昨年世界中で出荷されたスマホの台数は14億に達した。これまでで最多の数字で、世界の人口の約30%が所有している割合になる。

今後もニュースとモバイル機器とがますます深く結びつく流れの中で、欧州の各メディアは小さな画面に向けたサービスにこれまで以上に力を注ぐようになっている。

利用者の行動が変わるとともに自分たち自身も変わってゆく、欧州メディアの最近の動きを紹介したい。

習慣を作ってもらうために配信されるキュレーション・サービス

まず、欧州メディア各社が手掛けているニュースのキュレーション・サービスを見てみたい。

英国のニュース週刊誌「エコノミスト」が2014年11月から開始したのが、毎朝配信される「エスプレッソ」と呼ばれるサービスだ。

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(「エスプレッソ」の画面)

目覚めるとスマートフォンに手を伸ばし、メールやソーシャルメディアをチェックする人は多いが、こうした習慣を利用したサービスとなる。創刊から170 年以上の歴史を持つエコノミストが毎朝情報を発信するのはエスプレッソが初となる。

専用アプリをインストールすると、平日の早朝、その日に読むべきニュース5本がスマートフォンにダウンロードされる(エスプレッソはスマホ向けサービスだがメールアドレスに配信されるように指定すれば、デスクトップでも閲読できる)。

内容は政治経済から社会ニュース、国際事情まで幅広い。1本が120から140語で、閲読すると「読了」と言う印が付く。通常のエコノミストの記事は1本400から500語である。

エコノミストのジャーナリストは通常の記事とは別に、エスプレッソ用に短く、簡潔は記事を作成する。読者が5本すべてを読み切ると、「これで終わりです」という文章が出る。ロンドン、香港、ニューヨークの早朝をめがけて、1日に合計3つのバージョンを作っている。読者はいずれかのバージョンを読む形だ。

料金はすでにエコノミストの購読者になっていた場合は無料で、非購読者の場合は月に2・29ポンド(約304円)だ。

配信サービスの開始時期から現在までにアプリは110万回ダウンロードされ、読者は週に20万人。エコノミスト本誌の購読者の40%がエスプレッソを利用しているという。

興味深いのはエコノミストがエスプレッソを本誌購読のための呼び水とは考えていない点だ。このため本誌の記事へのリンクを貼っていない。忙しい読者のニーズに応える、あくまでも独自のサービスとして提供している。

筆者も時折利用しているが、1つ1つの記事が短いので読みやすい。その日に発生する出来事、例えばどんな国際会議があるか、どこで選挙があるか、閣僚が予定している演説は何かなどが分かり、ニュースを先取りできる利点がある。記事数が5本と限定されており、最低でも見出しや最初の文章を読んでおけばその日に知るべきニュースをひとまず押さえたという満足感がある。

デジタル時代のニーズに合わせ、フランスの夕刊紙「ルモンド」も新たな領域に踏み出した。モバイル用のサービス「夜明け」(La Matinale)だ。

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(「夜明け」の画像例)

登録すると、毎朝7時に、ルモンドの記事20本が配信される。記事は自動的にダウンロードされ、オフラインでじっくり読める。最初の月は無料で読めるようになっているが、それ以降は月に4・99ユーロ(約567円)を払う。

ルモンドは夕刊紙であり、朝をめがけてニュースを配信するのは大きな転換だった。年間1000万ユーロの負債を抱えた同紙は2010年、破産の一歩手前まで行った。

ルモンド・グループのルイ・ドレイフュス社長が6月中旬に開催された「世界ニュースメディア大会」(コロンビア、WAN-IFRA主催)で語ったところによると、窮地から脱却のために「イノベーション」、「新時代に活躍できる人材の雇用」、「新たなデジタル戦略の策定」で社内改革を決行したという。その一つの試みが朝の配信サービスだった。

グーグルがフランスメディアに提供したデジタル化推進基金の中で、ルモンドが得た180万ユーロの一部が「夜明け」の開発に使われた。昨年のローンチから現在までに48万回アプリがダウンロードされ、ページビューは月に2600万。1回の訪問の平均滞在時間は10分だ。アプリでの閲読のみのために有料購読をしている人は1万人。47%が1日に一度アプリを利用し、26%が2度、27%が3度以上利用している。

夕刊紙という伝統を破って毎朝ニュースを配信するサービスを開始したルモンド。ドレイフュス社長は会議のセッションの中で、「箱の外から考えるようにとスタッフに言ってきた。そうして初めて、読者を増やすことができる」と述べた。

12本の記事を昼の12時に出す

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(スイスの「12」サービス)

スイスの複合メディアグループ「タメディア」が始めた新たなニュース・キュレーションサービスがスマホ専用アプリの「#12」だ。

タメディアが発行する20を超える新聞や雑誌(ターゲス・アンツァイガー紙、女性誌、地方紙など)の中から、これはと思う12本をスタッフが選び、スタイリッシュな、モバイル専用のデザインに再パッケージ(見出しやリード、写真などを変える)して、毎日、昼の12時に配信する。

記事はロボットではなく、人が選び、時間をかけてスマホ用に再編集している。記事はカード形式に表示され、読者は左右あるいは上下に画面をスライドさせて次の記事を読む。

アプリ自体は無料だが、閲読は購読制だ。すでに媒体の印刷版を購読している場合は無料だが、それ以外は月に6スイスフラン(約623円)を払う。音楽配信サービスの「スポティファイと比べても安い」がうたい文句だ。

2015年10月12日にサービスを開始して、これまでに3万5000回ダウンロードされた。読者は1日に1万5000人。この中で、プリント媒体を購読しておらず、デジタル購読料を払っている人は1500人。利益が出るようになるには、2400人の有料購読者が必要だ。

ターゲス・アンツァイガー紙のデジタル部門統括役マイケル・マルティ氏によると、同社は#12を読者の反応を見ながらサービス向上させていく、一つの実験として位置付けている(4月にウイーンで開催された、欧州デジタルメディア会議にて)。

読者がある記事を好きか嫌いかなどのフィードバックを簡単にできるようにしてあるため、どのような記事が好まれているのかが分かるようになったという。毎日、2000から3000の反応があり、ライフスタイルについての記事は評価が高くなかったのであまり入れないようになった。また、ほかの媒体のサイトとのカニバリゼーション(共食い)を防ぐため、配信する記事の本数を12本以上には増やさない予定だ。

マルティ氏はこのアプリは新聞社にとっては「ワークショップのようなものだった」という。「読者は賢明だ。質の高い記事を好んでいる。読者との対話の機会を設けることで、読後の満足感や記事の質が高まった。将来のジャーナリズムがどうあるべきかを学んだ」と述べた。

なじみやすい形でアピールする、ヴェルト・コンパクトのモバイルサービス

ドイツの新聞社大手アクセル・シュプリンガー社が発行する高級紙「ヴェルト」には、小型タブロイド判の「ヴェルト・コンパクト」というバージョンがある。

このコンパクトが2014年5月に開始したモバイルサービスは、昨年、Wan-Ifraが選ぶ最優秀デジタルメディア賞の1つ(「最優秀モバイルサービス賞」)を受賞している。

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(ヴェルトのコンパクト版)

紙版のヴェルト・コンパクトができたのは2004年5月。大判のヴェルトを若者層に訴えるように小型版に編集した直したものだが、モバイルサービス「コンパクト (Kompakt)」最初からモバイルでニュースを読む人を想定に作られている。利用者の半分が30歳以下だ。

このアプリの発想は、アクセル・シュプリンガー社が行っているスタートアップ支援事業「プラグ・アンド・プレー・アクセレレーター」から生まれたものだ。

細長いスマホの画面に短い記事(段落2つが平均)と写真が1枚のカード状に映し出される。画面を左にスワイプすると、見ていた画面の内容とは別の(関連しない)記事が出る。右にスワイプすると、同様のあるいは関連する記事が出る。垂直に(上の方に指を滑らせて)スワイプすると、画面に出ている記事の詳しい内容が出る。

読者が自分で読みたいニュースを選ぶ「NewsCase」

ドイツのスタートアップのNewsCase社の前身「niiu(ニュー)」は2009年、起業家ワンヤ・オベルホフ氏が「個人の好みに合わせた新聞」を作るために創刊された。

自分の好きな新聞記事をウェブ上で選び、ソーシャルメディアにアップロードした写真などの素材とともに紙面に印刷。翌日の朝までに読者の元に届けるサービスだった。自分だけの新聞である。

しかし、一部毎にすべて異なる内容となる新聞の印刷には多額の費用がかかった上に、全国に配送するための経費も高額だった。2011年、紙のniiuはサービスを停止した。

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(「ニュースケース」の画面)

 ドイツ語を中心に約100の新聞、雑誌から記事をキュレーションする。米英のメディアの一部も参加している。 この頃、アップル社のiPadが欧州市場にも進出してきた。Niiuはタブレット版アプリとしてよみがえり、2013年8月から新規サービスを開始した。しかし、その後、タブレット版でキュレートしたニュースを出すライバルが続々と出てきて苦戦した。現在はスマホを中心としたサービスとし、社名もオフィスも変えた。

フリーミアム制となっており、アプリをダウンロード後、新聞社などのコンテンツ提供先が無料で出している記事は無料で読める。この時点では広告が入っている。新聞社の「有料の壁」に入っている記事をすべて広告なしで読めるサービスは月に9・9ユーロ(約1126円)の有料プレミアムとして提供している。

アプリを開くと、画面左側に複数のカテゴリー(政治、ビジネス、文化、スポーツなど)が並ぶ。それぞれに好みの媒体を指定できる。カテゴリー毎の指定媒体は何度でも変更でき、ニュースはネットが接続されている場所でアップデートされるので、最新の情報が並ぶ。その日に読みきれない記事や気になる記事は「お気に入り」に保存しておく。利用者が 削除しない限りいつまでも保存されているという。

利用者は「28歳から55歳ぐらいの忙しい人」だ。購読者数は公表していない。

利用者が払う購読料はアプリ販売プラットフォーム(アップル社など)に払う料金を差し引いた後、残りの額をニュースケースとコンテンツを作る新聞・雑誌の出版社側とが折半している。閲読の頻度によって出版社の収入が上下する。

ほかのアグリゲーションサービスでは、利用者が記事を選択すると、閲読のために元の記事を掲載した新聞社などのウェブサイトに飛ぶ必要がある。ネットの接続がない場所では記事が読めないことになるが、ニュースケースは出版社側とコンテンツ使用についてのライセンス契約を交わしているため、利用者は記事をタブレットにダウンロードした後、ネットが通じていないところでもじっくりと閲読できる。

新聞社のビジネスモデルを瓦解させる可能性も

ニュースケースのアプリの月極購読料は一つ一つの新聞社に払う金額よりもかなり低い。「新聞社のウェブサイトに来て、読んでもらう」「そのためには有料購読制をとる」というビジネスモデルを瓦解させる可能性もあるサービスだ。

ニュースケースが力を入れているのは、いかに読者が読みたい記事・読むべき記事を画面に集めるか。キュレーション力がニュースケースの頭脳部分になる。

筆者がベルリンでテクニカル担当役員マレク・スパーク氏に聞いたところによると、情報があふれる一方で自分の興味があることだけしか読まない「フィルター・バブル」(フィルターのかけすぎによる)を避けるため、記事の構成には独自の分析ツールを使う。分析はいくつかの層に分かれている。

(1)「意味の分析」――言葉の意味から判断する、(2) 「機械学習」――データから反復的に学習し、そこに潜むパターンを見つけ出す、(3)「ディープ・ラーニング――大量データの中に潜んでいる複雑なパターンを学習する、例えば同様の嗜好を持ったある人の閲読歴を学習し、読んだことがなくても読みたい記事を探し出す、(4)「人工知能」――人口知能を使っていくつかの層の結果や読者についてのほかの情報を総合的に分析し、「読みたい記事」が並ぶようにしているという。

個人化したニュースを広げるドイツの「Upday」

(「アップデイ」の画面)

 昨年、アクセル・シュプリンガー社が韓国の通信大手サムスン社の協力で立ち上げたニュース・アプリが「Upday」。これも個人の特性に合わせたニュースを配信するサービスだ。最初から縦型のスマホでの利用を前提として9月にベータ版をドイツとポーランドで開始し、今年2月から本格的にリリースした。現在までに100万人の利用者がいるが、「年内には1000万人までにしたい」(編集長マイケル・ウジンスキー氏)と大きな目標を持つ。

スタッフはパリ、ロンドン、ワルシャワ、ベルリンにいる80人。各国にいるそれぞれ6-7人の編集者がネット上でニュースを探し、これはと思う記事について概要をまとめ、「トップニュース」というカテゴリーに送る。読者がこの項目を開けると、選択した記事から新聞社やブログ記事などのサイトに飛ぶことができる。

もう一つの項目が「マイ・ニュース」。これまでに利用者がどのような記事をクリックしたか、どれぐらいの滞在時間をかけたかなどの情報からUpdayのアルゴリズムが読者が読みたいような記事を拾ってくる。これまでに2000を超えるニュース源と協力体制にあるという。

まだ利益は生み出していないが、「読み手の邪魔にならないように、記事と同じ画面ではなく全面広告のみを使うなど工夫している」という。読み手の特性が分かるので、ターゲットを絞った広告により収益を上げることを目標としている。 

動画、そしてメッセージ・アプリへ

先の「世界プレス・トレンズ」によれば、オンライン動画の人気は高まるばかりだ。フェイスブックで動画を楽しむ人は世界中で1日に90億人近くに達し、スナップチャットでは80億人、ユーチューブでは40億人に上る。

16-34歳の若者層の95%近くがオンライン動画を視聴し、55-64歳の中高年層の10人に8人も動画に魅了されているという。

こうしたトレンドの動きに合わせ、欧州各紙も動画コンテンツの充実に力を入れる傾向が続いている。

アクセル・シュプリンガーは2014年に24時間放送のテレビ局N24を買収したが、傘下の高級紙ヴェルトの編集室の一角に本格的なテレビチームを常駐させている。

先に紹介したルモンド・グループでは傘下のメディア媒体毎に特徴ある動画サービスを展開している。ルモンド紙の場合はソーシャルメディアでの拡散を担当する人員を含めて全8人の動画専用チームを置いている。ニュースの動きに合わせて動画を素早く出せるようにしてあり、今年3月時点で1700万の視聴を達成した。前年比で100%の増加だ。

ハフィントン・ポストのフランス語版も傘下にあり、こちらはブログが中心のコミュニティに合わせたトピックを扱いながら、月間900万の視聴を得るようになった。

週刊誌L’obsはソーシャルメディアでの情報の共有を表に出した形にし、スマホ画面の縦型に合わせた動画、バーチャル・リアリティ(VR)動画に加え、動画サイト「ペリスコープ」やフェイスブックのライブ動画配信サービス「フェイスブックライブ」を活用。月間800万の視聴がある。

モバイル機器での動画視聴が増える中で、ジャーナリズム自体も変わる必要があるというのが英BBCでモバイル・ニュースを担当するナタリー・マリナリッチ氏だ。同氏が実体験を通じて分かったこととして挙げるのは「動画の長さは1分から3分が最善」、記者は「視聴者一人に語り掛けるつもりで話す」こと(昨年10月、ハンブルクで開催された「モバイル・サミット」にて)。スタジオあるいは戸外でマイクを持ち、不特定多数の視聴者に向かって話す場合とは大きく異なるという。

スマホで視聴する人は「縦型画面で、一人で見ている」。これを想定した話し方、カメラの移動などが必要になる。記者自身がスマホを使って撮影し、動画を中継する場合は、さらにこの「一人一人に語り掛ける調子」がなじむ。「上から目線」ではそっぽを向かれるという。

視聴が多くなる動画は「瞬時に関心を引く内容であること」が肝心だ。視聴開始から3秒以内に関心を持ってもらわないと見てもらえないという。さらに、動画が「簡潔であること、明快であること、信ぴょう性があること、シェアできるようになっていること」を秘訣として挙げた。

ソーシャルメディアの「次」として注目を浴びているのがメッセージ・アプリだ。ツイッターやタンブラーなどのスタートアップに投資したベンチャー・キャピタリストのフレッド・ウィルソン氏が「これまでのソーシャルメディアの時代は終わった」「メッセージングこそが新しいソーシャルメディアだ」とブログで発言したのは2014年末だった。この年の2月、フェイスブックがWhatsAppを巨額で買収している。

昨年9月時点で、フェイスブック・メッセンジャーとWhatsAppのアクティブ利用者は16億人に達し、フェイスブックのアクティブ利用者の14億9000万人を超えた。

メッセージ・アプリを使うメディアは米バズフィード、ハフィントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナル、CNN,ニューヨーク・タイムズ、英国ではBBCなど、次第に増えている。

BBCは2014年、西アフリカで広まっていたエボラ熱についての医療情報を伝えるため、WhatsAppを利用した。利用者がBBC側が用意したある電話番号を携帯電話(スマホ及びフィーチャーフォン)の連絡先の1つに登録し、「参加する」を選択すると、関連情報が英語とフランス語で1日に3回、流された。この地域で最も使われているメッセージ・アプリがWhatsAppだった。

BBCトラスト(NHKの経営委員会にあたる)のメンバー、トルシャ・バロット氏が作成した「チャットアプリに対するガイド」と題された報告書によると、メディア企業にとっての利点は今現在発生しているコミュニケーション空間の中に入っていけること。利用者が主として携帯電話を使っていることから、デスクトップ向けにコンテンツを作った場合とは異なり、純粋にモバイル向けのコンテンツ作りを学習する機会ともなる。

14年のエボラ熱でのプロジェクトを本格的に開発するため、BBCは翌年、グローバル・ニュースの編集部内に専用の電話番号を設置し、ニュースの利用者から情報を募った。その後の自然災害時の情報収集などに役立てることができた。市民から寄せられた情報の信ぴょう性確認にも、情報には携帯電話の番号が付いてくるため、より早く、確実に行えるようになったという。

目下のところ、メディアの新しいツールとして最も話題に上っているのはいかにVR、あるいは360度画面の映像を効果的に使うか、だろう。

英左派系新聞ガーディアンによる「独房監禁」の映像を初めとして、ニューヨーク・タイムズなど大手がやり出しているが、「まだまだ実験段階」、「キラーコンテンツがない」とも言われている。

VR推進者の中でも第一人者となる、NYCメディアラボのエグゼキュティブ・ディレクター、ジャスティン・ヘンドリクス氏は「2018年がVRの本格的な年になる」(WAN-IFRAのブログ記事、6月6日付)と述べている。


# by polimediauk | 2016-09-20 01:17 | 欧州のメディア