小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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生のブレア首相とは?
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ブレア首相の会見がイギリス時間(1月6日)の朝の10時から、始まる。日本時間の午後6時からで、おそらく1時間強ほど続く。

 興味のある方は、BBCのオンラインのニュースサイトhttp://news.bbc.co.uk/1/hi/default.stm を開くと、会見を生中継で見れる。毎月一度開かれる、定例会見だ。

 日本の小泉首相もアメリカのブッシュ大統領も定例会見はないようだから、めずらしい、ということになるのだろう。

 出席者は、殆どが国会記者証を持っている英ジャーナリストたちだが、外国人報道陣も出席できる。私が英外務省担当者から聞いた話だと、国会記者証を持っていない外国人記者には数席用意されているという。

 しかし、首相官邸の広報担当者のさじ加減でどうにでもできるようだ。外国人報道機関の世話は外務省の担当部署が見ているが、希望者が多いので、抽選になる。

 私はしばらく抽選から外れてばかりだった。しかし、例えば政治報道が専門の記者でも特集面担当の記者でも、一律に抽選という方法は公正な方法とはいえないのでないか、と外務省担当者に抗議をしたことがある。

 その後、首相官邸の広報担当者に別件で取材を何度かし、顔を覚えてもらった。その年、所属している外国プレス協会のクリスマス・パーティーで、担当者に「出たい」と言ったら、「何とかする」と言われ、その後は、結構当たる確率が高くなった。

 イギリスは、日本同様、「誰かを知っている」ということが重要なコネ社会だ。

 たいてい昼頃からの会見が多いが、始まる少し前、各国のジャーナリストたちがばらばらに集まってくる。入り口で各自の携帯電話をテーブルに置く。後ですぐ分かるように何らかの目印――ポストイットなどーーをつける人も多い。会談を上って会見室へ。

 30-40名ほどが入る部屋の座席は、基本的にはどこに座ってもいいのだが、最前列はテレビでよく見かけるイギリスの政治記者たちが座る。最初の質問も決まって、ここに座っているイギリスの記者を、首相があてる。

 会見は、ブレア首相が10分ほど何らかのスピーチをしてから、質疑に入る。質問をするには、まずブレア首相の目に留まらないといけない。

 ひとしきり国内の記者をあてると、ブレア氏は中東、欧州などを中心に選ぶ。アジア系は比較的視野に入らないようだが、全体の数が少ないのかもしれない・・・。

 
―どんな人か?

 会見場の生のブレア氏は、どんな人か?

 ジャーナリストたちとのやりとりでは、気さくというか、親しみやすい、フレンドリーな調子で話す人だ。砕けた言葉で話す・・・というのではなく、「だからそれは君も分かっている通り・・・」、「そうやって僕から言葉を引き出そうと思っても無駄だよ」など、仲間内で話すような雰囲気がある。仲間・・といっても、仕事仲間だ。友達では、もちろんない。

 話していて、ある言葉に二重の意味があることに気づき、自分で吹き出してしまう場面もしょっちゅうある。

 しかし、結果、ブレア氏から本音を引き出せたか?あるいは思わず、失言したか?というと、それはゼロと言っていいだろう。

 かつて弁護士だったというだけあって、水をももらさぬ答弁になる。頭が良くて弁が立つ。

 したがって、1時間強という長い時間をもらいながら、かつ、こうした会見が毎月開かれているという、メディア側にすればものすごい恵まれた状況にいながらも、公式見解以外の何ものも引き出せなかった・・・という結果になるのだった。

 それでも、何故ジャーナリストたちは会見場に行くのか?

 「万が一」、ブレア氏が本音を言ってしまうかもしれないから。1つ1つの言葉、表情に、ある政策の行方のヒントをつかみたいから。何か新しいことが出るかもしれないから。他のジャーナリストがキャッチしたのに、自分がそこにいないことで、何かを逃したくないから・・・・。などなど。理由はいろいろある。

 何かがあっても、なくても、とにかく、「その場にいること」が肝心なのだ。

 6日の会見で、ブレア氏が嫌がるだろうけれど記者たちが執拗に質問するだろうトピックの1つは、アジアの津波の件で、何故休暇中のブレア氏が何のメッセージも出さなかったのか?になりそうだ。

 ・・・多分、今回も失言や本音は出そうにないが・・ 。

(写真はBBCのニュースサイトより。)
# by polimediauk | 2005-01-06 09:23 | 政治とメディア

ジャーナリストの志

日本に住むジャーナリストの中岡望さんが、「中岡望の目からウロコのアメリカ」というブログで、ジャーナリズム、ジャーナリストの志、ブログの可能性について書いている。

http://www.redcruise.com/nakaoka/wp-trackback.php/56


以下、若干抜粋・引用したい。

まず、むのたけじさんというジャーナリストの人の話から始まる。

ーー以下引用ーーー

彼の姿勢は、常に”反権力”でした。それは、ジャーナリズムは常により強いものに対する批判者としてあるべきだという考えに基づいていたのではないかと思います。ジャーナリズムが権力に迎合したとき、それはより大きな使命を失うことになるのでしょう。メディアの経営者やジャーナリストは、政府の諮問会議などのメンバーになっては駄目なのでしょう。が、それがあたかも自分の出世であり、自分の能力を評価されたと錯覚するジャーナリストも少なくないのが現実です。

(中略)

最近のジャーナリズムや論壇の状況を見ていると、勇ましい議論や声高な議論が勢いを得ているようです。日本の社会は、不思議なことに”声が大きい人”が勝つ社会だという感じがします。相手の意見を聞かず、自分の意見を声高に主張し、相手を威圧することが、あたかも優れた議論の仕方であり、自分を誇張する手法になっているようです。企業社会にも同じような状況が見られます。冷静に議論を積み重ね、共通する場所を捜し求め、優れた妥協点を見出すという知的努力が軽んぜられているようです。国会の議論などは、その典型的な例かもしれません。「政治はあるが、政策がない」のが、今の日本の政治状況のような気がします。

もう1つ感じることがあります。それはジャーナリズムの役割です。このブログを昨年の10月に始めました。仕事の合間に調べたことを「備忘録」のように書き綴ってきました。大手のメディアが報道しないような小さいが、それでも重要な事柄を取り上げてきました。アメリカのジャーナリズムの状況を見ていると、大手メディアに対抗する「Alternative Journalism」 あるいは「Alternative Media」が大きな影響力を発揮しつつあることを知りました。アメリカでは、ブログも重要な表現手段、ジャーナリズムの手段になっています。大手のメディアも、ブログの影響を無視できなくなりつつあります。たとえば、大統領選挙の公開討論があったあと、「ニューヨーク・タイムズ」や「ウォール・ストリート・ジャーナル」などの大手新聞も、ブログがどのような評価をしているかを報道していました。

一人のジャーナリストでも、大手メディアと対抗しうる手段を持つことができるようになったのです。むのたけじが横手で出していた週刊新聞「たいまつ」は、おそらくわずかな読者しか獲得できなかったではないでしょうか。しかし、情報化時代の現在、個人のジャーナリストが自らの表現手段を獲得することができるようになったのです。

日本では、まだブログがジャーナリズムとしての地位を確立するには至っていないようです。もともとフリーのジャーナリストが少ない社会なので、書き手の数が限られているのでしょう。しかし、遠からず、ブログという表現を獲得したジャーナリストは、独自の立場で情報と分析を提供するようになると思っています。ブログは同時にフォーラムでもあります。その双方向性は大手メディアよりも優れた場所を提供するようになるでしょう。ただ、アメリカにも気になる動きがあります。セントルイスの有力紙「セントルイス・ディスパッチ」紙は、記者がブログに執筆したことを理由に停職処分にしました。大手メディアにいては表現できないこと、報道できないことがあります。しかし、企業に属す限り、様々な制約がかかってくることになります。

このブログには、1日に2000件以上のヒットがあります。1月5日には3000件を越えるヒットがありました。もちろんヒットした数だけ記事が読まれているわけではありませんが、記事が累積するにつれて、確実に読まれている件数も増えてきています。

日本にも良質な「Alternative Journaoism」あるいは「Alternative Media」が育つべき時期がくるでしょう。今までもアンダーグラント的な反メディアは存在しました。例えば廃刊になりましたが「噂の真相」も、そうした種類のメディアであり、それなりの役割を果たしてきたと思います。ジャーナリストも食べていかなければなりません。したがって、収入にならないブログに全力投入はできません。それでも、真摯なジャーナリストにとってブログは自分の発言の場所としては極めて有効な場であることは間違いありません。

日本でもアメリカの「Alternative Journalism」あるいは「Alternative Media」に匹敵するジャーナリズムが誕生することを願っています。本ブログが、その一翼を担うようになるというのが、今年の抱負です。

もう1つ、今年の目標は、英語のブログを開設することです。本ブログはアメリカの情報を日本に伝えることを目的としていますが、英語のブログで日本の状況を海外に発信する必要性も感じています。実は、私は1989年から1992年まで東洋経済の英語月刊誌「Tokyo Business Today」の編集長をしていました。当時から、世界第2の経済国でありながら日本には世界に通用する英語のメディアがないことに不満を覚えていました。常に翻訳でしか海外に情報を伝えられないというのは、決して健全な状況ではありません。「公式的見解」とは違った情報を、日本人のジャーナリストが海外に伝えることができれば一番良いと思っています。そんなことを夢見ながら、年初の抱負としたいと思います。

ーーー引用終わりーーー
# by polimediauk | 2005-01-06 08:16 | 新聞業界
「ガーディアン」編集長のタブロイド判批判とは?

 2004年11月上旬、ロンドン市内で「(新聞の)大きさは重要か?」と題された議論の場(出版業界団体Staioners’ and Newspaper Markets Company主催)に各高級紙の編集長らが集い、それぞれの意見を交換する機会があった。

 メディア評論家の間では、インディペンデント紙の評判はタブロイド判になってから上々だ。ガーディアン紙のアラン・ラスブリジャー編集長は、これに同意しない。

 演壇に立ったラスブリジャー編集長は、タイムズ紙やインディペンデント紙、タブロイド紙「デイリー・メール」の一面のコピーを集まった聴衆に示しながら、、タブロイド判の高級紙が「タブロイド・ジャーナリズムに流れていること」への大きな危機感を表明した。

 例えば、インディペンデント紙のある日の一面は、黒の背景の紙面にイラク戦争開戦がきっかけで内閣を去った女性閣僚と、バグダッドで人質となった女性マーガレット・ハッサンさん(後殺害された)という女性二人の写真を並べていた。その下に、大きな見出しで「嘘と結果」とつけていた。非常に人目を引く、メッセージ性の高い紙面だ。

 「『嘘』というのは、おそらく、ブレア英首相が開戦理由に関して嘘をついた、だからこの閣僚が辞めた、ということだろう。しかし、その嘘の『結果』として、片方の女性が人質になっているというのは、やや論理の飛躍がないだろうか」。

 1面に1つの記事を入れ、強いメッセージ性を持った見出しで人目を引くというのは、既存のタブロイド紙の特徴だ。

 「これで売れ行きが伸びるのは分かる。しかし、こうしたやり方を踏襲しては、既存のタブロイド紙と高級紙とが全く見分けがつかなくなってしまう」。

―誰しも、「タブロイド」と一緒にされたくない

 質の高い報道を自負する高級紙が、「タブロイド紙と見分けがつかない」とくくられることは、イギリスの新聞業界では侮辱と受け取られる。タブロイド紙は読者数こそ巨大だが、その報道には信憑性がないとされ、女性の裸同然の写真が常時掲載される。日本の夕刊紙をさらにどぎつくしたもの、つまり低俗なものというイメージがイギリスでは非常に強いからだ。

 「全く見分けがつかなくなる」というラスブリジャー編集長の言葉に、おそらく、同じく議論に参加していたインディペンデント紙のサイモン・ケルナー編集長は、どきっとしたはずだ。

 さらに、ラスブリジャー編集長は続ける。「タブロイド市場と高級紙市場は、読者が期待するもの、提供されるジャーナリズムのスタイルが全く違う。現在の二つのタブロイド判高級紙が、既存のタブロイド紙特有の、読者に向かって、(あるメッセージを)叫ぶというスタイルを用いる方向に流れつつあることが、嘆かわしい」。

 では、ガーディアン紙のジャーナリズムとは?

 「もっと冷えた頭で物事を見る姿勢、もっと穏やかなアプローチ、もっと信頼感のあるオーソリティーがあるもの」。続けて、「自分の見方・意見と客観的ニュース報道が混同されていないのが、高級紙のジャーナリズムだ」。

 ここまで言われ、かちんと来た様子のケルナー編集長。ラスブリジャー編集長のスピーチが終わると、マイクは2人の間を行き来する。

 「タブロイドという器を使っても、十分に客観的な報道、質の高い分析記事を出してゆくことは可能」と、ケルナー編集長が反論する。

 「例えアラン(ラスブリジャー編集長)が何といおうと、新聞は、テレビやインターネットの速報性にはかなわない。どんなに一生懸命がんばってニュース報道記事を1面に出しても、翌朝の時点では、もう『遅いニュース』になっている」。

 「自分は、ニュースの背後にある意見、見方がますます重要になってくると思う」。インディペンデント紙は、これからも、「ニュースよりもビュー(意見、見方)を重視していく」と宣言した。

 ラスブリジャー氏はこれに真っ向から反対。新聞はニュース報道が先に来るべきであって、意見は後に来るべき、とした。

 「ニュース報道とは新聞のスタート地点であり、その報道が信頼できるものかどうかが最も重要だ」。完全タブロイド化したインディペンデント紙は「本当の意味で革新的なことをしたのではなく、既存のタブロイドのテクニックを使っただけだ」。

 「タブロイド」という媒体を使うと、このテクニックを使う方向に走らざるを得なくなるーーこれが高級紙がタブロイド判を作るときの「大きな危険性だ」と述べた。

 そして、インディペンデントのような「叫ぶ」スタイルを大きく前面に出していないタイムズのタブロイド判を、「よくできている」とほめたのだった。

 ただのやっかみなのか、それとも、真実をついた発言だったのか?

 2人の闘いは、11月末のオックスフォード大学のディベートの場で再燃することになった・・・。

 (上記の議論の様子を伝えるガーディアンの記事は以下のサイトで読める。)http://media.guardian.co.uk/presspublishing/story/0,7495,1346922,00.html)


# by polimediauk | 2005-01-06 00:03 | 新聞業界
人気の「インディペンデント」紙をこき下ろすライバル紙編集長

 小型タブロイド判にサイズを変えてからというのも、発行部数も売り上げも増加させてきたインディペンデント紙。格好いいポスターを思わせる、大胆かつ斬新な一面で、大人気となった。専門家の間でも、インディペンデント紙は、新たな「タブロイド判高級紙」というジャンルを作ったと評価が高い。2003年に引き続き、2004年も英マスコミ業界で毎年選出されるWhat the Papers are Saying賞の最優秀新聞となった。

 しかし、タブロイド判のみになったインディペンデント紙を真っ向から批判しているが、ライバル紙の一つ左派系のガーディアン紙のアラン・ラスブリジャー編集長だ。

 ガーディアンはタブロイド判の発行を否定しているが、2006年までにフランスのル・モンド紙などのような縦に細長い「ベルリナー型」を発行する、としている。

 9月時点でインディペンデント紙の発行部数は前年比20%増加したのに比べると、ガーディアンの発行部数は下がり続けており、そんなガーディアン紙の編集長がインディペンデントの新紙面を批判することに、意味があるのだろうか?ただのやっかみでは?

 ラスブリジャー編集長の言い分は、こうだ。

 まず、自分は小型判化そのものは、否定しない。読者は手軽でもちやすい新聞を好むだろう。ガーディアンでは大判の中に組み込む形で、すでに特集面をタブロイド判で発行しているので、固定読者も小型判に十分になじんでいる。

 しかし、「タブロイド紙」という言葉についてくる、低俗な新聞というイメージが嫌いだという。これをなんとしても、避けたい、のだ。

―編集長同士が対決

 ライバル同士の大手高級紙だが、ごくたまに編集長同士が一同に集まり、議論をすることがある。

 昨年11月の上旬と下旬、ラスブリジャー氏とインディデペントのサイモン・ケルナー編集長、タイムズのロバート・トムソン編集長がそんな機会を持った。

 ラスブリジャー編集長は、デイリーメイルなどの通常のタブロイド紙、インディペンデント、タイムズなどの高級紙を小脇に抱えて会場にやってきた。

 10月のロンドン市内の講演で、ラスブリジャー編集長が様々な新聞の1面を例にして、インディペンデントをこてんぱんに批判をしていたのを知っていた私は、この日もそれが起きるのだなと予想できたが、ケルナー編集長もトムソン編集長もまるきりそんなことは知らない様子で、それぞれの成功談を話すべく、集まっていた。

 ケルナー編集長のインディペンデントの部数増加の話が終わり、ラスブリジャー編集長が新聞を片手に話し出した。ケルナー編集長は、集まった出版業界の面々の前で、ほっぺたを引っ張ったかれるような痛烈な批判がなされるであろうことを、露とも知らず、自分のスピーチを終えた後のちょっとした安心感で席に座っていた・・・。




 

 
# by polimediauk | 2005-01-04 03:51 | 新聞業界
何故英タイムズ紙のタブロイド判は「いけてない」と判断されたのか?

 イギリスの高級紙タイムズが、同じく高級紙のインディペンデントの後を追い、通常の大型判と同時に小型タブロイド判の平行発行に踏み出したのは昨年の11月。インディペンデントの9月末の平行発行から2ヵ月後だった。

 最初に勇気ある一歩を踏み出したインディペンデントはそれだけで「偉い」。しかし、いかにも「後追い」となったタイムズは、それだけで若干価値が低くなってしまう。新聞はニュース、何か新しいネタが命。2番手となったら、もう最後でも同じ。

 それと、タイムズの場合は編集長の力の入れ方が若干違う・・・ように、外から見えた。

 これには若干の説明が必要となろう。タイムズ編集長ロバート・トムソン氏は元ファイナンシャル・タイムズ紙の優秀な記者で、オーストラリア人。タイムズを所有しているのはメディア王ルパート・マードック氏。マードック氏はもともとオーストラリア人。

 トムソン氏は40代半ば。まじめでおとなしそうな感じで、年齢よりは若干若く見える。昨年冬、ロンドンにある外国プレス協会のランチに出席した編集長は、「マードック氏から編集方針に関して指図されたことはない。全て自分が決めている」と宣言したものの、集まった報道陣でこれをそのまま受け取った人はほとんどいない。マードックのあやつり人形、という人もいる。マードック氏は今のところ現政権を支持しており、その姿勢が紙面にも色濃く現れているというのがメディア業界の大勢の見方だ。

 タブロイド判をやりたくても、もしタイムズが最初だったら、「マードック叩き」が始まる、例えば、「マードックが、質の高い高級紙を低俗なタブロイド紙のレベルに下げた」と言われるのを恐れて、2番手を選択したと、マードック氏はインタビューなどで語っている。「インディペンデントが最初にやってくれて、よかった」と。

 タイムズのタブロイド判発行開始は、いかにも、「上が決めたので、やりました」という構図がみえみえだった。

 経営上の判断からタブロイド判化を決定し、編集部がそれにしたがう、という流れそれ自体は悪いことではないだろう。

 しかし、トムソン編集長は、どうもタイムズがタブロイド判を発行することに対して、一種の恥ずかしさ、照れくささを持っていたようなのだ。イギリスではタブロイドというとサンを初めとするスキャンダル紙と思われるので、高級紙タイムズがタブロイド判を発行することを、一種の恥・・・だと。スーパーで売られている歯磨き粉の容器の大小をみて、「これだ!」とひらめき、情熱一杯でタブロイド化を推進したインディペンデントのサイモン・ケルナー編集長とは大違いだ。

 結果、どうしたか?

 タブロイド判の平行発行から2週間ほど経てからの先のランチの場で、トムソン編集長は、タブロイドを「コンパクト判」と呼んでいた。「僕はコンパクト判と呼びたい」。

 当時は大判とタブロイド判を同時発行していたので、「タブロイド判だけに将来はなるのか?」と聞かれると、「いや、そんなことはない」と宣言した。

 しかし・・・・。1年後の今年11月、先にタブロイド判のみになっていたインディペンデントの後をまた追って、完全タブロイド判化した。

  創刊から200余年の歴史を持つタイムズには、伝統を重んじる読者も多い。大判に愛着を持っていた読者は苦情の手紙をタイムズに送りつけ、一部の読者は大判のままのデイリーテレグラフ紙の編集長に「こっちに移ります」とする手紙を書いたりするという現象が起きた。

―レイアウトの迷い

 さて、小型になった紙面のレイアウトをどうするか?

 タイムズは長い間、どうやればベストなのか?を決めかねていた。

 最もインディペンデントと差がついたのは1面だった。インディペンデントは目立つ見出しと写真で、一種のポスターのような1面を作り、人気が出た。これをそのまままねするわけにはいかないだろう。

 すると、小さくなった紙面に、これまでのパターンで1面を組むものだから、ちょっとごちゃごちゃした紙面になった。インディペンデントよりも大胆に、人目を引く1面にすることは、不可能だった。

 平均2本の記事を組み合わせた1面。特に特徴もインパクトもない1面・・・。人々が、タイムズの1面を見て、よい意味での驚きと興味に引かれ、思わず手に取る・・・ことはなかった。

 「タイムズは大判の紙面をタブロイドに入れているだけ」とする評価が下った。そして、発行部数の増加率に大きな差がついていった。

 しかし、タイムズを応援し、インディペンデントをこき下ろす人が現れた。

 それは、ライバル紙ガーディアンのアラン・ラスブリジャー編集長だった。


 
# by polimediauk | 2004-12-31 20:06 | 新聞業界
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(大判と小型タブロイド判の2種類を同時発行していた頃のインディペンデント)

なぜ英インディペンデント紙が「いけてる」のか?

 新聞の発行部数が落ち続けるイギリスで、高級紙(日本の朝刊紙にあたる)の「タイムズ」と「インディペンデント」が通常の大型判と小型タブロイド判との並行発行を開始してから、1年が経つ。念願の発行部数増加は両紙ともに成就したものの、評価は大きく別れた。

 つまり、「インディペンデント」はいけてるが、「タイムズ」はちょっと・・・・という人が専門家の間でも多いのだ。

 まず部数増加率だが、「タイムズ」は今年9月時点で年間4・5%増で、「インディペンデント」の21%と比較すると大きな差をつけられた。

 理由は、「インディペンデント」は読者層が若く、多くは都市近辺に住み、新しいものを好む傾向が強いのに比べ、「タイムズ」の読者は年齢層が上で、伝統の継続を好む傾向があるためではないかといわれている。
 
 先に始めた方の利というのもあるだろう。「インディペンデント」がタブロイド判に先べんをつけたのは昨年の9月。これを「タイムズ」が11月に追った。本家はあくまでも「インディペンデント」。

 また、編集長主導でタブロイド判化をはじめた「インディペンデント」では、売り上げも当初の予想を超えて伸び、部内は「久しぶりに活気がある雰囲気になった」という部員の証言もある。作っている本人たちが元気なところは、こうしたムードが紙面にも何かしら反映されるのではないだろうか。

 イギリスの新聞は家庭での購読率が低く(全体の10数%といわれる)、読者は主に新聞販売代理店や駅や街角にある新聞スタンドで、1面を見てから、新聞を買う。ずらりと1面を表にして並べられている数紙から選ぶので、紙面が格好いいもの、見出しが目を引くものが売れる。

 「インディペンデント」は、人目を引く見出しと写真で格好いいポスターのような1面を作り、読者のハートをつかんだのだ。

 一例として、ケン・ビグリーさんというイギリス人のエンジニアが、バクダッドで人質になって殺されるという痛ましい事件があった。長い交渉の後で、とうとうビグリーさんは首を切られて命を落とした。何とも悲しく、むごい事件だった。

 このとき、他紙は、ビグリーさんが人質になっている写真を一面で使い、これに「ビグリーさん、殺される」といったような見出しをつけた。ストレートで分かりやすい。人目を引くような見出しなど不必要になるほど、衝撃的な殺害事件だったとも言える。

 しかし、「インディペンデント」は「殺害」という言葉を一切使わず、一言、「ビグリーの苦悩」とした。連日のようにビグリーさんの状態はテレビや新聞などで報道されていた。「殺害された」という意味の言葉を見出しに入れた他紙をよそに、あえて「ビグリーの苦悩」とすることで、読者に「おや?」と思わせた。何らかの深い読み物が展開されるであろうことが期待され、その期待感で思わず一部、手にとってしまう。

 前PLOのトップ、アラファト議長が亡くなった時も目立っていたのが「インディペンデント」だった。どの新聞も凝った作りになっており、甲乙つけがたかったが、「インディペンデント」は、モノクロの写真で、アラファト前議長の顔のクローズアップ。これだけで、記事はなし。非常に迫力のある紙面になっており、かつ、典型的な「ポスター紙面」で、そのまま壁に貼りたくなるような1面になっていた。

 すでに「高級タブロイド紙」という新たなジャンルを作り出した、ともてはやされた「インディペンデント」。一方、何故「タイムズ」は、「いけてない」とされたのだろうか?

# by polimediauk | 2004-12-30 09:07 | 新聞業界
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英国新聞界の新しい流れ
「タブロイド化」の張本人に聞く


インディペンデント紙編集長 サイモン・ケルナー氏

最近の英国新聞界の大きな流れの1つに、「ブロードシート」(「高級紙」として日本では訳されることが多い)と呼ばれる、日本で言うと全国紙にあたる新聞の小型化があげられる。昨年9月、4大高級紙の中では発行部数が最小のインディペンデント紙が、小型タブロイド判とブロードシート判の同時発行を開始。通勤電車の中での読みやすさ、手軽さが受けて、発行部数を急速に伸ばした。同年11月には、英国エスタブリッシュメントが読む新聞として216年の歴史を持つタイムズ紙も、これに追随。この1年で、小型化の動きは、欧州全体に広がっていった。

今年9月のインディペンデント紙の発行部数は約26万部で、前年同月比21%の増加。流れを追ったタイムズ(約62万部で4.5%増)に、伸び率で大きな差をつけた。

インディペンデント紙は、今年5月、大型判の発行を停止し、タブロイド判のみになった。11月にはタイムズ紙もタブロイド判のみに移行。大型判に愛着を持つ読者がタイムズ紙離れをするのでは、という声があがっている。残る2つのブロードシート紙の中で、ガーディアン紙は編集長自身が将来のタブロイド化を否定し、その代わりに、2006年までに、仏ル・モンド紙と同様の、縦に細長い「ベルリナー」型発行を明言している。高級紙の中では最大の発行部数を誇りつつも発行部数が落ち続けるデイリーテレグラフ紙が、近くタブロイド判の発行を開始するのでは、という噂は絶えない。

それにしても、新聞のサイズが変わっただけで、果たして発行部数を増やせるものなのか?――誰しもが、そう思うだろう。新聞は内容で勝負するのが本筋だ、いや、そのはずだ。

英国で「タブロイド」といえば、3面に決まって裸の女性の写真を載せる「サン」をはじめとして、事実無根に限りなく近い記事が満載の低俗紙というイメージを人々は持つ。高級紙があえてタブロイド判を出すまでには、相当の勇気がいったはずだ。

果たして何がきっかけだったのか?タブロイド判発行から3ヶ月ほどたった、2003年の末、インディペンデント紙の編集部をたずね、サイモン・ケルナー編集長に直接聞いた際のコメントを紹介したい。(ロンドンの日刊紙「英国ニュースダイジェスト」掲載分に加筆)

―何故、タブロイド判とブロードシート判の平行発行を決定したのか?売り上げ低迷が理由か?

まさに、そうだ。秘密でも、なんでもない。ありとあらゆる販売促進活動をやってみたが、うまくいかなかった。読者を失うのはあっという間だが、取り戻すのは難しい。非常に難しい。

この5年ほど、自分が編集長になってからは、無数の読者調査をしてきたが、繰り返して現れたのは、読者が、特に若い通勤者たちだが、小型のタブロイド判が手軽でいいと思っているということだった。

しかし、一方では、質の高さと信頼性という点からブロードシートを好む読者がいることも分かり、この2つの層をどうやったら同時に満足させられるか、を考え続けてきた。

―タブロイド判発行のきっかけは?

どうやってその発想を得たか、知りたい?

―是非

(身を乗り出して)1年ほど前、歯磨き粉を買おうと思って、スーパーマーケットの店内を歩いていた。棚を見ているうちに、突然、歯磨き粉はチューブ入りとかポンプとか、パッケージが様々で、サイズも大小あることに気づいた。同時に、歯磨き粉だけでなく他のどの商品も、多様なパッケージで販売されていることに改めて気づいた。

パッケージやサイズにバリエーションがあっても、中身は同じー。「これだ!」と思った。新聞がもし1つの商品だったら、同じ新聞でも様々なサイズがあっていい。2種類の大きさで出せば、ブロードシートが好きな人は従来の大判を、小型を好む人ならタブロイド判を選べる。

―部内からの反対意見はなかったのか?「タブロイド」という言葉に染み付いた、低俗な新聞というイメージが、英国では強いが。

本当に毎日発行できるか、心配だった。編集内部からの反対意見も少しあったが、説得した。(注:スタッフの一人によると、このアイデアが部会に出されたとき、もうすでに「やることが決まっていた」。だから表立って反対する人はいなかったが、乗り気だったのは、「おそらくケルナー編集長一人だけ」。)

―実際に始めてみての結果は?

「混んだ電車の中でも読みやすい」「小さいので抱えやすい」ととても好評で、部数も信じられないくらい伸びた。それまでの発行部数は18万部ほどだったが、タブロイド判を始めた翌月の10月は9月より約6%伸び、前年同月比では8%伸びた。以来、部数増加が続いている。

―タブロイド判とブロードシート判の読者層の違いは?

 タブロイド判の読者は主に通勤する人で、若い人や女性が多い。

―「タイムズ」のタブロイド判をどう評価するか?

 悪くないと思う。しかし、どうもインディペンデントのようなひらめきがないような気がする。ちょっと平坦な印象がある。

―他のブロードシート紙もタブロイド判を発行することになったら、どう対抗してゆくのか。

いよいよ、内容で勝負だ。うちには、すばらしい記者やコラムニストがいる。写真もいい。大きさよりも中身で判断してもらいたい。

―新聞はインターネットに淘汰されると思うか?

印刷された言葉への信頼感はこれからも残ると思う。ある事柄に関して深く突っ込んだ、読者が自分の意見形成に役立てることができるような、分析記事を出せるのが新聞の強みだ。

(写真: ケルナー編集長 「インディペンデント」紙提供)

ケルナー氏のこれまで

1957年12月9日生まれ。マンチェスター出身。地元の専門学校でジャーナリズムを勉強後、地方紙に見習い記者として就職。スポーツ記者として経験をつみ、83年、全国場版日曜紙「オブザーバー」紙のスポーツ記者になる。その後、「インディペンデント」紙の日曜版である「インディペンデント・オン・サンデー」紙のスポーツ面担当、「インディペンデント」紙の特集面担当などを経て、99年「インディペンデント」紙の編集長に就任。04年12月、BBC他主催の「What the Papers Say Award」で最優秀編集長賞 (Editor of the Year)を昨年に引き続き受賞。

インディペンデントは「左派中の左派」に
「インディペンデント」紙の創刊は1986年。支持政党や所有者の意見・意向が紙面に直接反映される英国の他の主要紙と違い、「中立」「独立」を柱に置く編集方針を誇ってきたが、現在は、イラク戦争への徹底した反対姿勢をとるなど、左派中の左派。7月のガーディアン紙のインタビューの中 で、こうした編集方針の変化を問われたケルナー編集長は、「質の高い記事を掲載するタブロイド判の新聞がなかった。だからインディペンデントがその隙間を埋めるべきだと考えた」と述べている。

 
ガーディアンのインタビュー “It's the most effective promotion in the history of newspapers” は以下を参照。
http://media.guardian.co.uk/mediaguardian/story/0,7558,1268882,00.html

# by polimediauk | 2004-12-29 10:00 | 新聞業界